国立大学法人 岡山大学

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ヒスタミンがマスト細胞成熟を促進させると証明

2013年09月25日

 本学大学院医歯薬学総合研究科の田中智之教授、古田和幸助教の研究グループ(生体応答制御学)は、ヒスタミンがマウスマスト細胞の顆粒成熟プロセスを正に制御することを明らかにしました。本研究成果は2013年9月3日、『European Journal of Immunology』誌電子版で公開されました。
 ヒスタミンは組織のマスト細胞で合成、貯留され、刺激に応じて細胞外へ放出され、花粉症や食物アレルギーといった即時型アレルギー応答を惹起します。本研究はヒスタミンがマスト細胞自身の成熟過程を促進することを見いだしたものであり、ヒスタミン合成を標的とした新たな抗アレルギー薬創薬が期待されます。
〈業 績〉
 強力な炎症誘発物質であるヒスタミンは、生体内ではヒスチジン脱炭酸酵素(HDC)により合成されます。これまでにHDCを遺伝的に欠失したノックアウトマウスでは、組織のマスト細胞の顆粒形成が異常であることが明らかにされていましたが、そのメカニズムは不明でした。岡山大学、武庫川女子大学、京都大学を中心とした共同研究グループは、マスト細胞が成熟する過程を再現する培養系の開発に成功し、これを用いてHDC欠損のマスト細胞の顆粒形成が異常であることを再現し、外部から添加したヒスタミンがこれを回復することを示しました。さらに、この作用における既知のヒスタミン受容体の関与の程度は小さいことを明らかにしました。これらの結果は、強力な炎症誘発物質として知られるヒスタミンが、その産生源であるマスト細胞の成熟を促進することを示すものです。

〈見込まれる成果〉
 ヒスタミンは4種の受容体を介してその作用を発揮すると考えられており、このうち、H1受容体拮抗薬は即時型アレルギー、H2受容体拮抗薬は消化性潰瘍における有力な治療薬として大きな成功をおさめています。一方、ヒスタミン合成酵素であるHDCの阻害剤の開発は殆ど進展していません。本研究成果は、HDCの選択的な阻害剤が、ヒスタミン合成を減少させるだけではなく、マスト細胞の成熟を阻害する可能性を示すものです。近年、基礎研究レベルでは、マスト細胞は即時型アレルギーのみならず、関節リウマチのような慢性炎症性疾患、あるいは糖尿病や動脈硬化といった生活習慣病の進展にも関わることが示唆されており、マスト細胞機能を抑制することはこうした疾患の新たな治療につながる可能性があります。

〈補 足〉
 マスト細胞は全身の様々な組織に分布する免疫細胞であり、例えば花粉症では花粉タンパク質が引き金となって、マスト細胞内の顆粒内容物が細胞外に放出されます。顆粒にはヒスタミンやプロテオグリカン、種々のタンパク質分解酵素が含まれており、これらのはたらきにより、炎症応答が惹起されます。

 本研究は日本学術振興会(JSPS)科研費(課題番号19590091, 21790100, 23590077)、公益財団法人ひょうご科学技術協会、財団法人三共生命科学研究振興財団(現・公益財団法人第一三共生命科学研究振興財団)、公益財団法人武田科学振興財団の助成を受け実施しました。

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<お問い合わせ先>
岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 教授
田中 智之
電話 086-251-7960
FAX 086-251-7926

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