国立大学法人 岡山大学

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新型コロナ後遺症の原因とされる宿主内持続感染は起きるのか〜全身性感染と不十分な免疫応答は持続感染のリスク要因に〜

2022年07月12日

◆発表のポイント

  • 免疫学的知見に基づく宿主内免疫応答の数理モデルを開発し、新型コロナウイルス感染症患者の臨床データに適用した。
  • 平均的ウイルス量が宿主内で産生される場合でも、ウイルスが体内から完全には除去されずに持続感染する可能性が、数理モデルにより示された。
  • 発症後約7ヶ月経過した時点でも、自然免疫の一つ樹状細胞が多くの患者で著しく減少したままであることが報告されており、宿主内持続感染が原因の一つとなることを、数理モデルにより明らかにした。
  • 不十分な免疫応答は、重症化および持続感染のリスク要因であり、感染後の患者で認められる新型コロナ後遺症 (Long COVID)の主な原因の一つとして、宿主内持続感染の可能性を示した。

 新型コロナウイルス (SARS-CoV-2) のスパイク蛋白質が結合するACE2受容体は、上気道や下気道の上皮細胞だけでなく、血管内皮や中枢神経を含め様々な臓器・器官の細胞表面に発現するため、インフルエンザのような限局感染とは異なり全身性感染の症例が多数報告されています。
 岡山大学異分野基礎科学研究所の墨智成准教授と豊橋技術科学大学IT活用教育センターの原田耕治准教授は、全身性感染を考慮した宿主内免疫応答の数理モデルを開発し、そのシミュレーション実験により、新型コロナ後遺症の原因 (Long COVID) の一つと考えられているウイルスの宿主内持続感染[参考文献1]が起こることを示しました。そして、感染が全身性であることが宿主内持続感染を可能にする一つの要因であることを指摘しました。
 新型コロナウイルス感染者の長期的臨床観察により、患者が入院したかどうかにかかわらず、免疫応答の最前線で活躍する自然免疫の一つである樹状細胞の数が、発症から約7ヶ月後においても、著しく減少したままであることが報告されています。一方、本研究の数理モデルによるシミュレーションにおいても同様の現象が観察されており、ウイルスの宿主内持続感染がその背景にあると考えられます。また、高齢者で一般に認められる不十分あるいは不完全な免疫応答が、重症化の典型的なリスク要因となるのと同時に、それが宿主内持続感染の可能性を高める原因となり得ることを見出しました。
 今後本研究を発展させてゆくことにより、ワクチン接種における記憶免疫細胞による宿主内持続感染回避の可能性や、感染後のブースター接種による後遺症の早期回復あるいは悪化の可能性など、理解が急速に進んでいくことが期待されます。
 本研究は7月4日、Cell Press社の「iScience」にオンライン掲載されました。

◆研究者からひとこと

 徹底的な文献調査に基づいてSARS-CoV-2に適用可能な免疫応答の数理モデルを開発し、新型コロナ感染者の臨床データに適用した結果、宿主内持続感染がどうやっても治らない事が分かった時には、大変驚きましたし、最初は信じられませんでした。
ですが、様々な臨床データとの整合性の確認を積み重ねながら数学的解釈を進める中で、宿主内持続感染が新型コロナ後遺症と密接に関係し得るという結論に至りました。
 今後はワクチン接種の効果を考慮した数理モデルへと発展させ、現在明らかになりつつある様々な問題の解明を目指して、研究を進めてゆく予定です。

墨准教授

原田准教授

■論文情報
論文名: Immune response to SARS-CoV-2 in severe disease and long COVID-19
掲載誌: iScience
著者: Tomonari Sumi, Kouji Harada
DOI: 10.1016/j.isci.2022.104723
発表論文はこちらからご確認いただけます。
URL: https://www.cell.com/iscience/fulltext/S2589-0042(22)00995-6

■研究資金
 本研究は、独立行政法人日本学術振興会(JSPS)科学研究費補助金(JP20K05431)の助成を受け実施しました。

<詳しい研究内容について>
新型コロナ後遺症の原因とされる宿主内持続感染は起きるのか〜全身性感染と不十分な免疫応答は持続感染のリスク要因に〜


<お問い合わせ>
岡山大学異分野基礎科学研究所
准教授 墨 智成(すみ ともなり)
(電話番号) 086-251-7837

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