国立大学法人 岡山大学

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魚油や亜麻仁油に含まれるオメガ3系多価不飽和脂肪酸のエイコサペンタエン酸が痛みに効く分子メカニズムを解明~慢性痛の新規医薬品の開発に期待~

2022年07月19日

◆発表のポイント

  • 魚油や亜麻仁油などに含まれるオメガ3系多価不飽和脂肪酸のエイコサペンタエン酸(EPA)は神経障害性や炎症性疼痛に有効であるが、その分子メカニズムは不明であった。
  • 本研究では、EPAが小胞型ヌクレオチドトランスポーター(VNUT)を標的に神経障害性と炎症性疼痛、インスリン抵抗性を改善することを発見した。
  • EPAは既存医薬品よりも副作用が少なく有効な鎮痛効果を発揮したため、VNUTを標的とした慢性疼痛の新しい治療薬や予防薬の開発が期待される。

岡山大学自然生命科学研究支援センター ゲノム・プロテオーム解析部門、大学院医歯薬学総合研究科(薬学系)膜輸送分子生物学分野の宮地孝明研究教授、加藤百合特任助教(現:九州大学薬学研究院助教)、原田結加特任助教、東京農業大学 応用生物科学部 岩槻健教授らの研究グループは、魚油や亜麻仁油などに含まれるオメガ3系多価不飽和脂肪酸のエイコサペンタエン酸(EPA)が小胞型ヌクレオチドトランスポーター(VNUT)を阻害することで、神経障害性や炎症性疼痛を予防・改善できることをモデル動物で見出しました。EPAが神経障害性や炎症性疼痛に有効であることはこれまで報告されていましたが、その分子メカニズムはよくわかっていませんでした。本研究により、必須栄養素のEPAが慢性疼痛を予防・改善する分子メカニズムを解明できました。本研究成果は、日本時間2022年7月19日に米国アカデミー紀要「Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America」に掲載されます。今後、神経障害性や炎症性疼痛を予防・治療できる医薬品や健康食品の開発が期待されます。EPAは医薬品として利用されていますので、適応拡大(ドラッグリポジショニング)に向けた臨床試験への展開なども期待できます。

◆研究者からひとこと

トランスポーター(輸送体)創薬は技術的な難しさから、まだ萌芽的な研究領域であり、その開発例も多くありません。私の研究室では、独自の研究技術・基盤を用いて、トランスポーターを標的に生活習慣病の予防や治療に役立つ薬学・栄養学的な研究に取り組んでいます。本研究にご興味がございましたら、共同研究や大学院生を広く受け入れていますので、ぜひご連絡ください。
宮地研究教授

■論文情報
論 文 名:Vesicular nucleotide transporter is a molecular target of eicosapentaenoic acid for neuropathic and inflammatory pain treatment
掲 載 紙:Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America
著  者:Yuri Kato(加藤 百合), Kengo Ohsugi(大杉 健剛), Yuto Fukuno(福野 雄斗), Ken Iwatsuki(岩槻 健), Yuika Harada(原田 結加), Takaaki Miyaji(宮地 孝明:責任著者)
D O I:10.1073/pnas.2122158119
U R L:https://www.pnas.org/doi/10.1073/pnas.2122158119

■研究資金
 本研究は、日本医療研究開発機構(AMED)革新的先端研究開発支援事業 PRIME(No. JP19gm5910019)、AMED 橋渡し研究戦略的推進プログラム岡山大学拠点シーズA(No. JP19lm0203008)、日本学術振興会 科学研究費 基盤研究B(Nos. 18H03179, 22H03534)、日本学術振興会 科学研究費 挑戦的研究(萌芽)(Nos. 17K19489, 21K19338)、日本学術振興会 科学研究費 若手研究(No. 18K14903)、公益財団法人 アステラス病態代謝研究会、公益財団法人 ソルト・サイエンス研究財団(No. 2038, 2140)、公益財団法人 上原記念生命科学財団、公益財団法人 ロッテ財団、公益財団法人 内藤記念科学振興財団、公益財団法人 武田科学振興財団の支援を受けて実施しました。

<詳しい研究内容について>
魚油や亜麻仁油に含まれるオメガ3系多価不飽和脂肪酸のエイコサペンタエン酸が痛みに効く分子メカニズムを解明~慢性痛の新規医薬品の開発に期待~


<お問い合わせ>
岡山大学 自然生命科学研究支援センター
ゲノム・プロテオーム解析部門
研究教授 宮地 孝明
(電話番号)086-251-7260
(FAX)086-251-7264


図1 多価不飽和脂肪酸の構造
図2 プリン作動性化学伝達の役割
図3 EPAは強力なVNUT阻害剤である
図4 VNUTは神経障害性疼痛の予防と治療に有効
図5 EPAはVNUTを標的に神経障害性疼痛を改善する

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