国立大学法人 岡山大学

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アカエイの淡水進出を可能にする腎機能の解明―なぜエイ類にはサメ類よりも汽水域や淡水域に生息する種が多いのか?―

2022年08月09日

東京大学
岡山大学

◆発表のポイント

  • 海水と淡水の両環境に適応可能なアカエイが、淡水環境において腎臓での溶質の再吸収を亢進するメカニズムを遺伝子レベルで初めて解析しました。
  • 板鰓類(サメ類・エイ類)の中でも、エイ類のアカエイは、サメ類であるオオメジロザメとは異なるメカニズムで淡水環境に適応していることがわかりました。
  • 本研究成果は、板鰓類における広塩性の進化と、広塩性種の生活史の理解に繋がる重要な基礎的知見を提供し、希少な広塩性板鰓類の生活史研究や保全の推進にも貢献することが期待されます。

 東京大学大気海洋研究所と国立遺伝学研究所、理化学研究所、岡山大学の共同研究グループは、アカエイの淡水進出を可能にする腎臓の機能を初めて明らかにしました。板鰓類(エイ類・サメ類)は、ほとんどが海水にのみ生息する種ですが、例外的に河川などの淡水環境にも適応できる能力(広塩性)を持つ種が存在します。これまでの先行研究によって、広塩性のサメ類であるオオメジロザメでは、腎臓のネフロンの特定分節で発現する膜輸送体の遺伝子が淡水適応に重要であることが示唆されていましたが、このメカニズムがすべての広塩性板鰓類に共通かは不明でした。本研究では、淡水に移行したアカエイの血液・尿の組成と、腎臓での遺伝子発現を詳細に解析することで、オオメジロザメとは異なるネフロンの分節が、淡水中での溶質再吸収亢進に大きく貢献することを明らかにしました。本研究の成果は、板鰓類における広塩性の機能発達と獲得起源についての進化的洞察を提供するもので、希少な広塩性板鰓類の生活史研究や保全の推進にも貢献することが期待されます。
 本研究成果は、2022年8月9日(英国夏時間)に「Frontiers in Physiology」のオンライン版に掲載されます。

■発表雑誌:
雑誌名:「Frontiers in Physiology」(8月9日付)
論文タイトル:Molecular and morphological investigations on the renal mechanisms enabling euryhalinity of red stingray Hemitrygon akajei
著者:Naotaka Aburatani*, Wataru Takagi*, Marty Kwok-Shing Wong, Shigehiro Kuraku, Chiharu Tanegashima, Mitsutaka Kadota, Kazuhiro Saito, Waichiro Godo, Tatsuya Sakamoto, Susumu Hyodo
DOI番号:10.3389/fphys.2022.953665
アブストラクトURL:https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fphys.2022.953665/abstract

■研究資金
本研究は科研費「川を遡上するオオメジロザメの広塩性に関する生理生態学的研究(17H03868)」「軟骨魚類研究への逆遺伝学的解析の導入(19K22414)」「軟骨魚類の広塩性メカニズムの解明:「海水魚」がなぜ低塩分環境に適応できるのか(21J20882)」の支援により実施されました。

■発表者
油谷 直孝(東京大学大学院理学系研究科 博士課程)
高木  亙(東京大学大気海洋研究所 助教)
齊藤 和裕(岡山大学理学部附属牛窓臨海実験所 技術専門職員)
坂本 竜哉(岡山大学学術研究院自然科学学域/岡山大学理学部附属牛窓臨海実験所 教授)
工樂 樹洋(国立遺伝学研究所 教授)
兵藤  晋(東京大学大気海洋研究所 教授)

<詳しい研究内容について>
アカエイの淡水進出を可能にする腎機能の解明―なぜエイ類にはサメ類よりも汽水域や淡水域に生息する種が多いのか?―


<お問い合わせ>
東京大学大気海洋研究所 海洋生命システム研究系海洋生命科学部門
助教 高木 亙(たかぎ わたる)

東京大学大気海洋研究所 海洋生命システム研究系海洋生命科学部門
教授 兵藤 晋(ひょうどう すすむ)

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