国立大学法人 岡山大学

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腸がない「無腸動物」の感じるしくみ~ナイカイムチョウウズムシの動かない「毛」の役割~

2024年02月22日

◆発表のポイント

  • 瀬戸内海の自然海岸にひっそりと生息している腸がない不思議な生き物「ナイカイムチョウウズムシ」の感じる仕組みに、動かない「毛」が関係していることが分かりました!
  • たった2mmの体長で、この動かない「毛」を頼りに、障害物をよけ、暑い寒いを感じ、美味しい不味いを判断、なんとそこにヒトの病気に関係する遺伝子の関与が明らかとなりました!
  • ヒトを含めた左右相称動物の進化の大本(ご先祖様)となる本種の環境応答機構を調べることで、あらゆる動物が持っている感覚の起源に迫ることができるかもしれません!

 岡山大学大学院環境生命科学研究科博士後期課程の坂上登亮大学院生と岡山大学学術研究院教育学域(生命科学領域)の安藤元紀教授の研究グループは、無腸動物に備わる感覚に着目し、新しい研究手法を開発、本種が有する刺激受容機構に関与する分子基盤の一端を明らかにしました。研究成果は2月2日、国際誌「Cell and Tissue Research」(Springer Nature)の電子版に掲載されました。
 無腸動物は体腔・肛門を欠損する体制を有し、系統進化学的には左右相称動物の起源に位置していることから世界的に大きな注目を集めています。本研究で用いた無腸動物「ナイカイムチョウウズムシ」は瀬戸内海沿岸に生息する固有種で、一般にはほとんど知られていません。本研究では、本種に備わる感覚器と脳・神経系の関係、それらの機能を担う分子的基盤を明らかにしました。表皮感覚細胞では新たな構造体を発見し、その関連分子として我々ヒトを含めた多くの動物に備わる一過性受容体電位型(TRP)チャネル遺伝子群の発現が確認されました。特に注目すべき分子としてヒトの病気に関わるTRP polycystin(PKD2)の発現が認められ、この分子を介して外部環境の変化を感知し、脳・神経系を介して情報伝達されることが予想されます。
 今後の研究の進展により、無腸動物が有する表皮感覚細胞を介した刺激受容応答機構の全貌が明らかとなり、左右相称動物の感覚の起源に遡る分子機構の解明が期待されます。

◆研究者からひとこと

 坂上さんを中心に研究室一丸となって取り組んできた研究成果の2報目の論文となります。無腸動物研究にどっぷりはまり、通学中の電車の車窓(瀬戸大橋線)から体長2mmの無腸動物の生息場所を見つけてしまう人智を超えた能力を獲得してしまった坂上さんです。謎がいっぱいの無腸動物(と坂上さん)に興味を持たれた方は是非ご連絡ください!我々といっしょに、五感を研ぎ澄まし研究しましょう!
安藤教授

■論文情報
論 文 名:Structure of putative epidermal sensory receptors in an acoel flatworm, Praesagittifera naikaiensis.
掲 載 紙:Cell and Tissue Research
著  者:Tosuke Sakagami, Kaho Watanabe, Mayuko Hamada, Tatsuya Sakamoto, Toshimitsu Hatabu, Motonori Ando
D O I:10.1007/s00441-024-03865-y
U R L:https://link.springer.com/article/10.1007/s00441-024-03865-y

■研究資金
 本研究は、科研費特別研究員奨励費(22KJ2308)、水産無脊椎動物研究所個別研究助成(KO2021-05)および特別電源所在県科学技術振興事業における大学等委託研究事業の一部支援を受けて実施しました。

<詳しい研究内容について>
腸がない「無腸動物」の感じるしくみ~ナイカイムチョウウズムシの動かない「毛」の役割~

<お問い合わせ>
学術研究院教育学域(生命科学領域)
教授 安藤 元紀
(電話番号)086-251-7753
(FAX)086-251-7755
(URL)https://edu.okayama-u.ac.jp/~rika/cell_physiology/index.html

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