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No.21 岩石に刻まれた磁気からたどる過去の地球

focus on -UNO Koji

No.21 岩石に刻まれた磁気からたどる過去の地球

大学院教育学研究科理科教育講座
 宇野 康司 教授

 地球がひとつの大きな磁石であることは有名ですが、実はそのN極とS極は、数十万年に1回程度の頻度で逆転を繰り返しています。岩石には、形成された時点での地球磁石の向きが記録されており、大学院教育学研究科の宇野康司教授は、この磁気の記録を利用して地球の過去の姿を調べる「古地磁気学」に取り組んでいます。磁気をたどることで、数億年間で陸地がどのように移動してきたのか、その真相に迫ります。

―古地磁気学とはどのようなものでしょうか。

宇野教授
宇野教授

 簡単にいうと、岩石の中に記録されている、昔の地球磁場の向きについての情報です。
 岩石には主に液体のマグマが冷えて固まった火成岩と、水中に砂などが積もってできた堆積岩がありますが、そのどちらにも磁鉄鉱など磁石の性質をもった粒子が含まれます。これらは地球という大きな磁石のもつ磁場の影響を受け、地球の磁場方向に平行な向きの磁気を帯びますが、岩石が固まった時点でその磁気の向きは固定され、その後ほぼ変わることはありません。つまり岩石は、自身ができた際の地球磁場の向きを記録しているといえるわけです。
 地球のN極とS極は数十万年ごとに逆転を起こすため、ある地域の地層を調べていくと、磁場の逆転が起こるたびに、記録されている磁気の向きが逆になっていることがわかります。また、磁気の向きが周辺と異なっている場所があれば、その場所には陸地の移動など、大規模な地殻変動があったことが推測されます。このような磁気の向きの変化を利用して、地球の過去の姿を探る学問が古地磁気学であり、私の専門です。

―岩石の磁気の情報をどのように利用するのですか。

 さまざまな活用法がありますが、もっとも基礎的な活用法としては、その地層がどの年代に堆積したかを調べるのによく使われます。これまでの研究で、地球にいつ地球磁場の逆転が起こったのかという、「標準年表」とも呼べるようなデータが構築されています。地層中に含まれる化石や放射性同位体などを使って年代のだいたいの目星を付け、その地層における磁気の向きの変化パターンを標準年表と照らし合わせることで、地層の年代を決定するという方法ですね。地球磁場の変化は地球全体で共通ですので、それほど古くない年代であれば地域や時代を問わず利用できるのが強みです。

―古地磁気学は、「大陸移動説」を証明するのにも活躍したと聞きました。

大陸移動説の証明
図1:海洋底の磁化の向きのイメージ図。グレーは現在の地磁気と同じ向きに、白は逆向きに磁化している。矢印はプレートの拡大方向

 1920年代までにウェゲナーが唱えた、「過去の地球にはパンゲアと呼ばれるひとつの大きな大陸しかなく、パンゲアが複数に分かれながら移動したことで今の大陸分布ができた」とする説ですね。この説は大陸の移動方法が不明であったことから当時の科学ではなかなか証明できなかったのですが、1950年代以降、古地磁気学が最初に、非常に明快な証明を成し遂げました。
 その頃までに、地球上の大海が調査され、海底に海嶺(海底山脈)があることが分かっていました。海嶺周辺の海底の岩石の磁気を調べたところ、なんと磁気の向きの変化パターンが、海嶺を挟んでちょうど左右対称に、横じまを描いて並んでいたのです(図1)。
 水平方向に向かって磁気を帯びたしま模様の並びが観察されるということは、水平方向に新たに海洋が形成されたという証明にほかなりません。この発見がその後、複数のプレートの相互作用で地球表層の多くの現象が説明できるというプレートテクトニクスの理論の確立につながりました。
 この証明は、私が古地磁気学を志したきっかけでもあります。大学生のときにこの証明に出会い、このように地球規模のダイナミックな変動を解き明かすことができる古地磁気学の面白さに惹かれ、「地球史」を解き明かしてみたいと思うようになりました。

日本列島
図2:約2000万年前の日本列島の復元図(Otofuji et al., 1985を改変)

 さらに、磁気をたどることで、具体的に大陸がどのように移動したのかも調べることができます。岩石に記録された磁気の向きそのものはまず変わることはありませんが、ある地域が大陸ごと移動したとしたら、他の周辺地域と比べて移動した分だけ磁気の向きがずれることになりますよね。このずれをさまざまな年代・場所で調べ、分析することで、陸地が元々どの場所にあり、どのように移動してきたのかを明らかにすることが可能です。例を挙げると、日本列島は、2000万年前くらいまでユーラシア大陸の一部であったことが研究から分かっています(図2)。







―宇野先生ご自身は、現在どのようなテーマで研究に取り組んでいますか。

地質調査の様子
地質調査の様子(大分県姫島・2019年8月 中央:宇野教授)

 最近2億年間ほどの日本列島を含む東アジア地域の移動について主に調査しています。大陸移動説というと、パンゲアから大陸が少しずつ分離していくイメージがあると思いますが、実はアジア地域はその逆で、元々10以上の小大陸にばらばらに分かれていたのが、2億年以上をかけて集まったことで今のアジア地域ができたことが分かっています。
 これまでの世界各国での研究によって、世界各地の大陸の移動はかなりの部分明らかになっています。しかし、このアジア地域の動きについて、古地磁気学の観点から取り組む日本人研究者は非常に少ないです。アジア地域の陸地が具体的にどのように移動してきたか、各地を調査しながら研究を進めているところです。
 調査では、アジア各地に赴いて、地層を採取したりします。目的の地域において、地層が広域にわたり目立って大きな地殻変動などが起きていない場所を調べたのち、1地域につき数日~1週間程度かけて現地で地質構造を調査し、ブロック状や柱状などさまざまな形で地層を採取します。この際、採取した場所における地層の正確な向きが重要になるため、専用の方位磁針を使って記録します。採取した地層は特殊な機器を用いて磁気情報のノイズを取り除き、岩石用の磁力計を使って分析します。

方位磁針
専用の方位磁針。分度器がついており、3本の棒部分を地層面上などに設置した状態で角度を記録する


―宇野先生は研究だけでなく、教育の面でも高い評価を受けていらっしゃいますね。

 優れた授業や教育を行っているとして、2019年度の「岡山大学ティーチング・アワード」に選ばれました。本当にうれしいです。
 恩師から学生時代、「今自分が行っている研究について、世界で一番詳しいのは自分自身なのだから、自分が正しく発表して理解してもらわなければ埋もれてしまうよ」と鼓舞されました。その言葉を今も大事にしており、新しい内容の授業や発表をするときには、内容が正しいかどうかだけでなく、どうすれば一番伝わりやすいかを考え徹底的に改善することを心がけています。1週間前くらいから、研究室の学生の前で何度も予行練習をして、改善点を出してもらっています。今回の受賞も、本当に学生たちのおかげですね(笑)。
 学生とも、「最初にできたものは完成品には程遠い」を合い言葉に、よりよい研究や発表の仕方を一緒に検討し、ノウハウを蓄積しています。学生と一緒に成長することができるなら、お互いにとっていい関係であることは間違いありません。その過程を通じて、正しい批評力をもち、議論を深められる、そんな学生を育てていけたらと思っています。

略歴
宇野 康司(うの・こうじ)
1970年生まれ。神戸大学大学院自然科学研究科修了。博士(理学)。専門は古地磁気学。岡山大学大学院教育学研究科講師・准教授を経て、2018年より現職。

(20.01.28)