国立大学法人 岡山大学

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No.9 古墳に隠された背景

forcus on - Jun Mitsumoto

No.9 古墳に隠された
背景

大学院社会文化科学研究科
 光本順 准教授

 岡山県は全国的に見ても古墳の数が多い地域です。古墳には被葬者の情報だけでなく、当時の時代背景やネットワークなど、さまざまなヒントが隠されています。光本准教授らのグループはレーザーを使った三次元計測と手作業による発掘調査を重ね、県内の古墳の詳細な研究を進めています。

―光本先生はどのような調査を行っているのでしょうか。

 古墳を調べるには、まず古墳の正確な形を知ることが重要です。これが基礎材料になり、その古墳の形状がどのような意味を持つのか、また古墳時代のいつ頃に作られたものなのかなど研究が進んでいくためです。私たちのグループでは、レーザーなどによる三次元計測を含む測量調査を行い、その後に手作業での発掘調査を進めています。三次元計測は二次元の等高線図に比べて精密な上、テラス(段状になっている部分の平坦面)など等高線図では分かり辛いものでも確認できるというメリットがあります。2013年から岡山大学考古学研究室で調査を進めている津倉古墳(4世紀初め頃)では、一年目に測量調査を行い、今年3月に4回目となる発掘調査を行いました。学生も含め10~20人ほどで数週間~1ヶ月かけて調査を行います。古墳の場合、土の色や深さ、石の種類、堆積状態など一つ一つ精密なデータを取らなければならず、さらに発掘調査が終わった後も報告書をまとめなければいけないので、年間を通して作業を行っています。

―墓を見るということは、どのようなことが分かるのでしょうか。

 弥生時代の終わりごろから、誰でも入れるような墓のほかに、特定の人しか入れないような墓が出てき始めます。つまり、墓を見ることで当時の社会の縮図のようなものが見えてくるのです。人々がどのように埋葬されていたのか、どんな石材が使われているのかなどを調べていくと、生前の社会的地位やネットワークまで分かってきます。

―それでは、実際に調査を進めている津倉古墳ではどのようなことが分かってきたのでしょうか。

 津倉古墳は、石室(遺体が納められている場所)は香川県の安山岩でできています。これまでの研究で分かっていることですが、古墳時代前期の吉備では、安山岩を使うのが有力墳の一部で流行していました。しかし不思議なのはその多さです。津倉古墳は長さ38.5メートルというそれほど大きくない古墳なのですが、140メートルクラスの巨大古墳に匹敵する量の石材が使われています。古墳は大きければ大きいほど地位が高いと言われていますが、では石材の量は一体何を示すのでしょうか。なぜ津倉古墳のようにそれほど大きくない規模の古墳に大量の安山岩があるのでしょうか。この答えは調査を進めなければ分かりませんが、当時、津倉古墳のすぐ南は海だったので、海上交通など海を越えたネットワークを持った人だったのかもしれません。もしかすると讃岐から吉備への石室石材供給にかかわった人物なのかもしれないですね。想像が膨らみます。

―今年3月には、津倉古墳で青銅鏡が見つかり話題となりました。

青銅鏡
発掘した青銅鏡

 はい。2室ある竪穴式石室のうち、西側の石室の頭部付近から、日本列島で製作された倭製鏡と思われる青銅鏡が見つかりました。詳細な年代や被葬者像に迫る重要な手がかりになる発見です。「鼉龍鏡」(だりゅうきょう)と呼ばれる種類の鏡である可能性がありますが、鏡の種類も含め今後のクリーニングを経て文様を詳細に検討します。石室内での確かな出土位置が特定できた点も、今回の成果です。津倉古墳では、発掘調査を始めて3年目に土師器壺(素焼きの壺)、4年目となる今年は青銅鏡が出てきました。最初の2年はほとんど何も出ずなかなか手がかりが掴めずにいたので、鏡を見つけたときは非常に興奮しました。

―今後の展望を教えて下さい。

 弥生時代の墳墓は古墳ほどの定まった形をしておらず、古墳時代にようやく決まった形、決まった埋葬パターンなど定まった方式が出始めます。弥生時代から古墳時代は、いろいろな形式がある時代から、画一的な時代へ変わっていく大きな転換点とされます。これまで岡山大学における吉備の古墳研究は、そうした古墳時代像を描くことに貢献してきました。最新の計測技術と新たな古墳の発掘成果を元にして、時代の変化のメカニズムを明らかにしていきたいです。

―最後に、考古学を目指す学生にメッセージをお願いします。

光本准教授

 発掘というのは地道な仕事かと思われるかもしれませんが、一度掘ってしまうと元に戻せないので非常に責任のある仕事です。さらに報告書を作ると、それが後々まで基礎データとして使用されるので、そういった点でも責任が伴うやりがいのあることです。この古墳の状況をよく知っているのはどんなに偉い先生でもなく、発掘している学生本人。自分で発掘することで、新たな発見があるかもしれないので、楽しんでもらいたいです。

略歴
光本 順(みつもと・じゅん)
1975年生まれ。岡山大学文学部卒。同大学院文化科学研究科修了 博士(文学)。岡山大学埋蔵文化財調査研究センター助手・助教を経て、2012年10月から現職。専門は考古学・博物館学。

(18.05.28)