ウイルス対策の現状


(1) 植物ウイルス
植物ウイルスの防除は、①ウイルス罹病株の早期発見と除去、②ウイルス媒介ベクター(昆虫等)の適切な管理による圃場管理、③抵抗性品種の利用、④弱毒ウイルスの利用、化学農薬の利用、などを組み合わせて行うことが重要です。自然条件においてもウイルスは変異頻度が高いため、上記の防除対策の中から複数の効果のある防除対策を用いた防除計画の立案と迅速な対策の導入が望まれます。

しかし、実際には、有効な防除対策の選択肢が限られている場合もあり、有効な防除計画を立案し、これを実行することに困難が伴うケースもあります。各対策の現状については、概ね以下の通りです。

① ウイルス媒介ベクターの管理
昆虫等ウイルス媒介ベクターの管理については、ネットハウス、シルバーテープ、UVフィルム張り等によって媒介昆虫の飛来を防ぐなどの物理的防除や殺虫剤・土壌消毒剤処理などによる化学的防除等を組み合わせた総合防除対策がとられていますが、いくつかの技術的な課題もあります。例えば、媒介昆虫等の飛来を防止するネットハウスについてはウイルスの伝染を防止する有効な対策となりますが、網目が細かいとハウス内の換気がうまくいかず、高温になるため、夏秋どり栽培では使えません。

② 抵抗性品種の活用
抵抗性品種の利用については、稲、麦等の穀類では多くのウイルス抵抗性品種がありますが、野菜では限定的で、ウイルスによる被害が大きいにもかかわらず有望な抵抗性品種・系統がない作物や対象ウイルスも多いです。また、抵抗性品種・系統があっても食味や収量性等その他の特性の問題等で使えないケースや、種苗の販売見込み額と抵抗性品種の開発コストの関係から実用化が難しいことも多いです。抵抗性品種がウイルスの新たな型(ストレイン)の出現により、抵抗性が打破されることもあり、変異型の出現に対して育種スピードが追いつかない事態も懸念されます。なお、遺伝子組換えウイルス抵抗性品種については、米国などで実用化されていますが、国内において商業的な栽培を行っているものはありません。

③ 弱毒ウイルスの開発
弱毒ウイルスについては、遺伝子組換えによって作成した弱毒ウイルスを登録したことはありません。ウイルスによっては弱毒ウイルスを単離することが困難な場合もあります。また、効果が高く安定したワクチン株の開発、大量増殖、安定供給のための製剤技術等の技術面での課題もあります。

④ その他の対策
その他、決め手となる防除対策はなく、ウイルスに対して卓越した効果のある防除対策が求められています。


(2) 動物ウイルス
高病原性鳥インフルエンザや口蹄疫等のウイルスに起因する家畜の重大疾病がアジア諸国等で継続的に発生しており、我が国への侵入リスクも高い状況にあります。農林水産省としては、水際検疫において、病原体の侵入防止を徹底するとともに、国内防疫においては、「発生予防」、「早期の発見・通報」及び「迅速な初動対応」に重点を置き防疫措置を実行しています。

「発生予防」に資する対策としては、例えば鳥インフルエンザでは、渡り鳥の飛来を防ぐための監視体制の強化が進められています。また、点眼等により接種が省力かつ感染防御効果の高い鳥インフルエンザワクチン等の開発も行われています。また、「早期の発見・通報」に資する診断法としては、例えば、現場で活用できる高病原性豚繁殖・呼吸障害症候群(PRRS)等の簡易診断法の開発が行われています。

ウイルスに起因する疾病の予防、まん延防止に係る技術開発としては、以下の課題があります。

① ウイルス媒介ベクターの防除
日本脳炎ウイルス、アカバネウイルス等を媒介するカやヌカカ、重症熱性血小板減少症候群ウイルスを媒介するマダニ、牛白血病ウイルスの機械的伝搬に重要な役割を果たすアブ、サシバエなど、多数の家畜感染症、人獣共通感染症あるいは新興感染症の原因となる吸血性節足動物を防除するための技術開発(節足動物の人工飼育システム開発や感染実験系の確立を含む)が必要です。

② ウイルスワクチンの開発
ウイルスによる疾病の防疫の一つとして、効果が高く安定したワクチン株の開発、大量増殖、安定供給のための技術開発の促進が求められています。近年においては、ゲノム情報を利用したin silico 解析によりワクチン抗原の候補を選択および最適化できる“Reverse Vaccinology”手法が注目され、欧州の製薬会社では、ヒトの髄膜炎を予防する初のワクチンの開発に成功しましたが、これは、当該疾病の原因菌(B 型髄膜炎菌)のゲノムを解読してin silico 解析により効果のあるワクチンを作製したものです。本技術の動物ウイルスに対するワクチン開発においては、前述のような新たな技術の活用も期待されます。

③ 抗ウイルス剤の開発
重要家畜疾病に対する抗ウイルス剤については、その継続的な開発が望まれます。口蹄疫や高病原性鳥インフルエンザのような伝播力の強い疾病が急速に拡大した際には、緊急ワクチンの接種から効果が出るまでの間にタイムラグが生じる可能性があります。このタイムラグを埋めるために抗ウイルス剤(化学薬品)が活用されますが、一方で大量の抗ウイルス剤の使用は耐性ウイルスの出現を招く可能性があるため、異なる作用機序の抗ウイルス剤を開発することが望まれています。

*ウイルス対策の現状については、「革新的ウイルス対策技術の開発」研究戦略~異分野融合研究~ (平成26年5月15日「理学・工学との連携による革新的ウイルス対策技術の開発」研究戦略検討会 農林水産技術会議事務局)より引用しました。




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