岡山大学病院 口唇裂・口蓋裂総合治療センター

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口蓋裂のお子様がお話しやすい言葉について
—お子様のお名前をお考えになる参考にー

はじめに

 生後、一般的には1才半頃から意味のあることばが少しずつ出てきて、2歳ごろからはっきりとした言葉を話し出し、この時期より自分の名前を相手に伝えるようになります。この時期からお父さんお母さんたちがお付けになったお名前を自分自身を示す大事なものとして、お子さん自身が使いだすことになります。
 この一生使い続けるお子様のお名前をお考えになるのは、そう簡単なことではありません。お名前にはお父さんお母さんの愛情や将来への期待など、構成する文字や"音"に様々な意味を込め、お子さんに対する多くの強い思いが込められています。しかしながら、口蓋裂をお持ちのお子様には、お子様によって異なりますが、喋りづらい音がでることがあります。そのため、お子さんのお名前は、幼少期よりお子様が相手に伝えやすい音で構成されたお名前が良いとも言われています。
   そこで、ここでは口蓋裂のお子さんの言葉の発達や問題の概略を説明させていただきますので、お名前をお考えになる参考にしていただければと思います。

ことばを話すまでの概要

 口唇口蓋裂のお子さんは、術後に口の状態が整うため、話し始めが遅いこともあります。しかし、ゆっくりではありますが、多くのお子さんたちと同じような道筋を経てことばや発音は発達していき、3才頃には同年齢のお子さんに追いつくことが多いと言われています。
 発音については、最初は唇を使ったパ、バといった音、それから舌を使う音がタ、ダ、カ、ガ等の音が出せるようになり、徐々に日本語で使うすべての音が出せるようになっていきます。
 また術後、ことばの獲得過程で、発音(構音)がうまくできない、間違った発音の方法を覚えてしまう、声がしゃがれる等がおこる場合もあります。
 手術により軟口蓋の形や筋肉を整えて、お話ができるようお口の状態を整えますが、中には軟口蓋が自由に使いこなせずに発音に問題が出てくる子供たちがいます。鼻から息が漏れたフガフガしたような発声や、鼻から息が漏れるのを補うよう誤った発音の仕方を学習してしまうことがあります。その際は、言語聴覚士と一緒に発音や発声の練習をしていきます。

うまく話せない原因

a.開鼻声

開鼻声

 口蓋裂のお子さんにみられる最も多い言葉の障害は、息が鼻に抜けてしまった声になる開鼻声です。鼻咽腔を閉鎖する軟口蓋の長さや咽頭の深さ、閉鎖する筋肉の力などが不足している状態で生じます。

b.発音方法のあやまり

  1. 鼻咽腔閉鎖機能不全によって起こりやすい発音方法のあやまり

    鼻咽腔閉鎖機能不全が生じている場合、発音がかなわない言葉(破裂音・・・)に対してはそれに似通った音を自分で考えて作りだして(代償性)、それを使い続けます。

    • 声門を強く閉めながら、詰まるような音(母音を強く区切ったような音)。(声門破裂音)
    • 舌の後ろを喉へ寄せて、絞り出すような苦しそうに出す音。「サ」行で起こりやすい。(咽頭摩擦音)
    • 舌の根元をのどへ押しつけて出す音。「カ」行で起こりやすい。(咽頭破裂音)
  2. その他の発音のあやまり
    • 口腔を無理に閉鎖して鼻にかけた音。クンクン言うように聞こえる。(鼻咽腔構音)
    • 舌の前の方を使う音が、後ろへ移動する。(口蓋化構音)
      「タ」→「カ」に、「サ」→「ヒャ」「シャ」に近い音になる。
    • 顎や唇が横にずれて、口の横から息がもれる音。(側音化構音)
      「シ」→「ヒ」、「チ」→「キ」に近い音になる。
  3. 発達過程で誤った発音のしかたを覚える
    • 子音がなくなり、母音だけになる。(省略) 「さかな」→「あかな」など。
    • 音が別の音に変わる。(置換)   「さかな」→「たかな」など。

お子さんが言いやすい名前とは

 以上のことから、鼻に抜けても発音しやすく、また舌をうまく使えなくても言いやすいような、マ行、ナ行、「ん」を含む、母音から始まるなどの名前が、比較的話しやすいのではないかと思われます。
具体的には、以下のような名前が考えられます。

【具体例】(ほんの一部です)

なお なおと なな まな ななお なおみ もも あい のぶ いよ うた
あおい みなみ まみ もな みなと のあ うみか あんな なみ まお
みな ほなみ めぐみ ゆうと ゆうや ゆうき ゆうた あや あゆむ
ともみ ともこ とも ゆみ ももこ

など。

上記に示す内容は、あくまで一般的な場合であり、個々のお子様によって言いやすい音や、発話の仕方も変わってきます。ご参考程度に見ていただければ幸いです。
生まれてくるお子様に対して、その子のことをご両親、あるいはご関係される方々によって、十分に考えられた愛情たっぷりのお名前を、是非お考えいただければと思います。
また生まれてからも言語聴覚士がことばのフォローをいたしますので、それからでも結構ですので、またご相談いただければと思います。

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