ウイルスは最も細胞を理解し、数少ない遺伝子産物で細胞機能を操作しています。
私たちは、ウイルスの精緻な営みを詳細に理解することで、様々な生命現象の原理を解明しようとしています。
知り得た事実をうまく利用し、ウイルス感染症の治療薬の探索、ウイルスベクターの開発、
ウイルスを用いた細胞機能の制御などの研究・開発を進めています。

BDVは、神経指向性のRNAウイルスです。このウイルスの特
徴として、細胞核に持続感染するということ
が挙げられます。BDVの急性感染では、馬や牛で致死性脳炎を引き起こすことがあります(ボルナ病)。一方、BDVの持続感染で
は、
抑うつ状態や学習障害、社会行動異常など精神疾患様の症状を来すことが報告されています。BDVを中心に神経ウイルスの病原性を
解析 することで、精神疾患の病態解明のヒントや核内での非自己RNAの挙動原理を見つけようとしています。

ヒトゲノムの約40%が、レトロトランスポゾン(転移因子)に よって占められています。その中でも、
LINE-1 (long interspersed nuclear element-1)
は、現在もゲノム上で転移を繰り返しています。最近の研究から、これらレトロトランスポゾンと様々なウイルス間に相互作用がある
ことがわかってきました。この相互作用の実 態とその意義・メカニズムについて、様々なウイルスを用いて幅広く研究しています。

HHV-6Bは小児の突発性発疹の原因で、生涯にわたり体内に 持続・潜伏感染する共生ウイルスです。
ところが、造血幹細胞移植時などに再活性化して脳炎や脳症を起こすことがあります。このウイルスがどのような仕組みで
潜伏感染を維持し、神経における病原性発揮に至るのかを解明します。さらに、他のヘルペス ウイルスについても研究しています。

半世紀以上も前に発見されたこのウイルスには感染系すら樹立さ
れていません。僅か3.2kbのDNAウイ
ルスは、たった4つの遺伝子産物を駆使して肝臓に持続感染するウイルスです。しかも、レトロウイルスのように逆転写過程を生活
環にも持ちます。このウイルスの真の生活環を解明し、病態発症機構と治療戦略に迫ります。