国立大学法人 岡山大学

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新規抗マラリア剤の開発に向けた創薬ライブラリーの構築と高活性剤の発見

2013年05月29日

 本学大学院自然科学研究科の井口勉准教授(精密有機反応制御学研究室)の研究グループは、新規構造の抗マラリア活性剤の発見に成功し、その作用機構の一部を究明しました。本研究成果は、2013年4月15日発行の創薬化学専門誌『European Journal of Medicinal Chemistry』に掲載されました。
 本研究成果により得られた抗マラリア活性剤の構造活性相関をさらに進め、新規物質の安全性と有効性研究を経て、特効薬クロロキンに変わる新たな抗マラリア剤に発展する可能性が期待されます。
<業 績>
 岡山大学大学院自然科学研究科の井口勉准教授を主とする共同研究グループは、三大感染症の一つとして人類の脅威となっているマラリア治療剤の開発に取り組み、新しい構造の高活性な薬剤の発見に成功しました。さらに、抗マラリア活性を発現する機構について検証も実施しました。マラリア感染は、特に世界の熱帯地域における、ヒトの疾病や死亡の主要な原因です。マラリアのライフサイクルの複雑さと多型性の早さが原因で、宿主−原虫の相互作用は、ほとんど理解されていません。現在、臨床現場で治療に用いられるマラリア治療剤には、(1)キニン系化合物、(2)葉酸拮抗薬の組み合わせ、(3)アルテミニシン関連化合物があります。今回、研究チームは、アフリカ原産植物であるCryptolepis sanguinolentaの根からの抽出物が、西および中央アフリカでマラリアや癌治療などに利用されていることに注目し、この植物成分のインドールキノリン骨格を創薬リード化合物とする抗マラリア薬の案出を行いました。簡便かつ大量供給可能な母格の合成法を確立し、11位に各種アミンを置換してIを作り、さらに化学修飾した化合物IIを多数得て、抗マラリア活性のスクリーニングを実施しました(図1)。その中で、IIaは、in vitroでP. falciparum(熱帯熱マラリア原虫)NF54セルに対する活性データIC50が、特効薬クロロキンよりも高い活性を示しました。また、選択毒性の指標(L6/P.f.-NF54)では、極めて高い結果が得られました。さらに、これらの化合物のβ-ヘマチンの阻害検査では、クロロキン(Chloroquine)やアルテミニシン(Artemisinin)よりも高い活性が認められました。また、構造活性相関の研究においでは、分子極性表面の領域とβ-ヘマチン阻害との間に線形相関が認めらました。


図1.インドールキノリン構造をもつ抗マラリア剤の構造と活性データ

<見込まれる成果>
インドールキノリン骨格にエステル基を導入すると細胞毒性が大幅に下がり、その誘導体は動物実験でも効果が見られました。本研究成果により、抵抗性出現のため効果の落ちたクロロキン、アルテミニシンに代わる新たな熱帯熱マラリア原虫に有効な抗マラリア剤の迅速な開発が期待されます。

<補 足>
 本研究グループでは、既存の特効薬クロロキンよりも活性が高く、目標としたIC50の値が1〜10nMのものをこれまでに多数発見しています。一部化合物では、マウスの動物試験を実施し、その結果として動物実験において抗マラリア活性を示すものが得られています。また、エステル基を導入した結果、水溶性向上に有効でin vitro試験で高活性を示す結果が得られています。

 本研究は、科学振興機構研究成果最適展開支援プログラム A-STEPの助成を受け実施しました。また、2013年5月8~10日に開催された、アジア最大の国際バイオ展「BIO tech 2013」(東京)において、本学ブースからの出展と展示会主催のアカデミック・フォーラムで口頭発表を行いました。

発表論文はこちらからご確認いただけます

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発表論文:Lu WJ, Wicht KJ, Wang L, Imai K, Mei ZW, Kaiser M, El Sayed IE, Egan TJ, Inokuchi T. Synthesis and antimalarial testing of neocryptolepine analogues: Addition of ester function in SAR study of 2,11-disubstituted indolo[2,3-b]quinolines. European Journal of Medicinal Chemistry, 2013, 64, 498–511; (doi: 10.1016/j.ejmech.2013.03.072)

報道発表資料はこちらをご覧ください

<お問い合わせ>
 岡山大学大学院自然科学研究科 准教授
(氏名)井口 勉
(電話番号)086-251-8210
(FAX番号)086-251-8021

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