甲状腺刺激ホルモン, TSH(thyroid stimulating hormone)
臨床的意義
甲状腺刺激ホルモン(thyroid stimulating hormone ; TSH)は、下垂体前葉より分泌され、甲状腺ホルモンの分泌を調節している。TSHの血中濃度は甲状腺機能の変化を敏感に反映するため、甲状腺疾患の診断のfirst choiceとしてきわめて重要な役割を果たしている。TSHは視床下部からのTRH(TSH releasing hormone)の刺激により合成および分泌が促進され、甲状腺を刺激し甲状腺ホルモン(thyroxine ; T4、triiodothyronine ; T3)の合成・分泌を促進すると同時に甲状腺の成長・発育を促進する。逆に、血中の甲状腺ホルモンは、下垂体のTSH分泌細胞の機能を直接抑制し、あるいは視床下部からのTRHの分泌の抑制を介して、TSHの分泌を減少させる(negative feed back system)。このフィードバック調節は敏感で、甲状腺ホルモンがわずかしか分泌亢進しておらず、血中甲状腺ホルモン値が基準値を超えないような状態でもTSHは低値となり、逆に甲状腺ホルモンのわずかな分泌低下でも高値となる。一般の診療においては、TSH値の異常は甲状腺ホルモンの分泌異常に伴い、このフィードバック系を介して起こる二次性の変化によるものがほとんどであり、TSH値の異常があればまず甲状腺疾患を疑う。甲状腺の異常が明らかでなければ、下垂体-視床下部の疾患の検索が必要である。
異常値示す疾患
free T4高値 | free T4低値 | |
低値 | 甲状腺中毒症 | 下垂体性甲状腺機能低下症 |
甲状腺機能亢進症 | 下垂体機能低下症(下垂体炎、Sheehan症候群など) | |
Graves病、機能性甲状腺腫(Plummer病) | ||
破壊性甲状腺中毒症 | TSH単独欠損症 | |
亜急性甲状腺炎 | 視床下部性甲状腺機能低下症 | |
無痛性甲状腺炎 | 薬剤(グルココルチコイド、ドパミン、フェニルブタゾン、アスピリン、フロセミドなど) | |
出産後破壊性甲状腺中毒症 | ||
医原性甲状腺中毒症 | ||
高値 |
下垂体TSH産生腫瘍 | 原発性甲状腺機能低下症 |
SITSH(TSH不適合分泌症候群) | 橋本病 | |
甲状腺ホルモン不応症(Refetoff症候群)・全身型および下垂体型 | クレチン症 | |
出産後一過性甲状腺機能低下症 | ||
薬剤(アミオダロン、メトクロプラミド、ドンペリドンなど) | 原発性粘液水腫 | |
医原性(甲状腺摘除術後、RI治療後) | ||
亜急性甲状腺炎の回復期 | ||
薬剤(リチウム、ヨードなど) |
測定原理: 電気化学発光法(ECLIA法)
測定機器 : コバス8000(平成29年5月8日より)
Eモジュール(平成18年7月18日より平成29年5月2日まで))
エクルーシス2010(平成18年7月14日まで)
測定試薬 : ロシュ
相関
平成29年5月8日
X=旧機器
Y=新機器
Y=1.031X+0.323 r=0.998 n=167
平成18年7月18日
X=旧機器
Y=新機器
Y=0.82X+1.29 r=0.998 n=102
基準範囲:0.61〜4.23 mIU/L(令和4年12月21日より)
0.33〜4.05 μU/mL(令和4年12月20日まで)
小児の基準値
出生後1時間までに急激に上昇し、その後やや低下するが、新生児期にはその後と比べて著しい高値を示す。その後徐々に低下し、乳児期は成人に比してやや高値であるが、1歳以後は成人と基本的に差がなくなる。男女差は特にない。
採取容器:茶)生化学一般用分離剤入り試験管
関連項目
FreeT3
FreeT4
サイロイドテスト
マイクロゾームテスト
抗サイログロブリン(Tg)抗体
抗甲状腺ペルオキシダーゼ(TPO)抗体
TSAb
TSBAb
TRH負荷試験
甲状腺エコー
CT
MRI
シンチグラフィ