■採精・精子凍結~妊孕性温存の実際~

■妊孕性温存のアルゴリズム(男性の場合)
1.男性の妊孕性温存
  • 妊孕性の温存は女性だけの問題ではありません。
  • 男性においてもガン・白血病等の悪性腫瘍患者の手術・化学・放射線療法前に妊孕性温存を目的とした精子の凍結保存が行われています。
  • 不妊治療において、採精・精子凍結は日常的に行われており、技術的に確立しているといえます。
  • 奥様が妊孕性の温存治療を行う場合にも、顕微授精を行うために、ご主人には採精をお願いします。
○概要
  • 近年、癌治療の進歩によって、多くの方が病気を克服することができるようになってきました。しかし、癌治療は癌細胞のみならず正常細胞にまでダメージを及ぼすため、男女の生殖機能にも影響し、将来的に不妊の原因となる可能性があります。そのため、癌治療後のQOL(生活の質)向上を目的とし、癌治療前に精子や卵子または胚(精子と卵子を受精させた状態)を凍結し、将来的に妊娠の可能性を残しておく事ができます。
  • 男性においてもガン・白血病等の悪性腫瘍患者の手術・化学・放射線療法前に妊孕性温存を目的とした精子の凍結保存が行われています。不妊治療の分野において、採精・精子凍結は日常的に行われており、技術的に確立しているといえます。
【精子の凍結保存に関する見解】
 平成19年4月社団法人 日本産科婦人科学会

 ヒト精子の凍結保存(以下本法)は人工授精ならびに体外受精などの不妊治療に広く臨床応用されて いる。一方、悪性腫瘍に対しては、外科的療法、化学療法、放射線療法などの治療法が進歩し、その 成績が向上してきたものの、これらの医学的介入により造精機能の低下が起こりうることも明らかに なりつつある。そのため、かかる治療を受ける者が将来の挙児の可能性を確保する方法として、受療 者本人の意思に基づき、治療開始前に精子を凍結し保存することは、これを実施可能とする。
【その他の留意点】
  • 精子の凍結保存を希望する者が成人の場合には、本人の同意に基づいて実施する。精子の凍結保存を希望する者が未成年者の場合には、本人および親権者の同意を得て、精子の凍結保存を実施することができ、成人に達した時点で、本人の凍結保存継続の意思を確認する。
  • 凍結保存精子を使用する場合には、その時点で本人の生存および意思を確認する。
  • 凍結精子は、本人から廃棄の意思が表明されるか、あるいは本人が死亡した場合、廃棄される。
  • 凍結保存精子の売買は認めない。
  • 本法の実施にあたっては、精子凍結保存の方法ならびに成績、凍結保存精子の保存期間と廃棄、凍結した精子を用いた生殖補助医療に関して予想される成績と副作用などについて、文書を用いて説明し、了解を得た上で同意を取得し、同意文書を保管する。
  • 医学的介入により造精機能低下の可能性がある場合は、罹患疾患の治療と造精機能の低下との関連、罹患疾患の治癒率についても文書を用いて説明する。
2.採精
  • 事前に、精子量や精子濃度、運動率、正常形態率白血球数、色などを検査いたします
  • 採精子手順
  • 2~3日の禁欲期間をもつ
  • 採取前に排尿する
  • 手を洗い精液全量をカップに直接採取する(採取後、手を洗う)
  • 蓋をきちんと閉める
  • 2枚の検査ラベルを貼る(カップ側面・蓋と側面にかけて)
  • 精液検査依頼用紙を記入
○精子凍結とは.
<方法>
採取された精液を洗浄・濃縮して凍結保存液と混ぜ、
-196℃の液体窒素タンク内で保存

<適応>
  • 体外受精を予定し、精液検査で精子が毎回は確認できない方採卵当日に 
    採精できない可能性のある方にお勧めします
  • 凍結精子のみでの人工授精は有用性がほとんどないのでお勧めできません
○精子凍結保存の事前準備
  • 感染症採血(エイズ・梅毒・クラミジア・B型肝炎・C型肝炎)1年以内の結果が必要です
  • 精子凍結保存説明書・規定の確認
  • 精子凍結保存同意書・凍結精子融解同意書の提出
  • 予約
     精子凍結予約をしてください。
    *院内で採精される場合は採精室予約も必要です(精液検査説明参照)
○精子凍結融解後生存率
  • 凍結前と融解後の総運動精子数での比較
  • 生存率:約50%
  • 総運動精子数:全精液中の総運動精子数
  • 凍結融解後の液量は1.0ml
  • *凍結精子のみでの人工授精は、お勧めできません
  • 精子凍結保存は、体外受精のためとお考えください
○精子凍結保存に関する注意事項(まとめ)
  • 感染症採血は1年以内の結果が必要
  • 精子凍結保存同意書・凍結精子融解同意書は 凍結時に毎回提出
  • 保存期間1年・延長申請は1年ごとに必要
  • 期限内に延長保存の申請がない場合は破棄処分します
  • 凍結精子のみの人工授精はお勧めできません
3.精液中に精子がいない場合
  • 精液中に精子がいない状態を「無精子症」といいます。
  • 抗がん剤の使用や放射線治療と無精子症との関連を示すデータが報告されて おり、男性に関してもがん治療が妊孕性に影響を及ぼしていることが知られています。
○無精子症の場合の精子採取方法(TESE)
無精子症(精液に精子が認められない)の場合には、精巣内精子採取術という治療法により、
精子を採取します。
○肉眼下(simple-TESE)と顕微鏡下(micro-TESE)