岡山大学病院 口唇裂・口蓋裂総合治療センター

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口唇裂・口蓋裂の症状

哺乳

 出産後に直面する最初の課題は、哺乳となります。赤ちゃんが乳首を捕え、ミルクを吸い出すには、くちびる、上あご、下あご、舌などを協調的に働かせて、乳首を圧迫する動作と、口のなかを陰圧にする動作を交互に繰り返さなければなりません。口唇裂・口蓋裂のある赤ちゃんでは、くちびるや上あごが割れているため、乳首を圧迫する力が弱く、またお口の中で空気をためて陰圧をつくることができないため、母乳やミルクを吸う力が弱く、哺乳がうまくできないことがあるため、いろいろな手助けをしてあげなければなりません。

哺乳困難

矢印で示す裂から空気が漏れるため、陰圧を作ることが難しいです。

中耳炎

 口蓋裂があるお子さんの場合、 滲出性しんしゅつせい 中耳炎ちゅうじえん が高い割合で発症することが知られています。滲出性中耳炎とは、鼓膜の内側にある鼓室に貯留液が貯まる中耳炎で、痛みを伴うことは少ないため、周りから気づかれにくいことがあります。この原因としては、鼻と耳をつなぐ管(耳管)の働きを調整する筋肉の機能が弱いことや、口の中と鼻の奥が交通していることによる食物や胃酸の逆流などによって耳管が炎症を起こしやすいことが考えられています。
 滲出性中耳炎は、難聴の原因ともなりますが、生まれた時の聞こえの検査で指摘されることもあれば、その後に発症することがあります。また、口蓋裂のお子さんの中には、急性中耳炎(鼓膜に炎症が起きて、痛みや膿が貯まるタイプの中耳炎)を繰り返すこともあれば、滲出性中耳炎のように症状が明らかでないことがあるため、耳鼻科にて定期的に中耳炎のフォローアップを受ける必要があります。

滲出性中耳炎

滲出性中耳炎で鼓室に液体が貯まっている(→)

発音しにくい

 口唇裂・口蓋裂を有するお子さんでは、ことばの獲得過程で、発音(構音)がうまくできない、間違った発音の方法を覚えてしまう、声がしゃがれること等がおこります。
 当センターでは、2歳代より言語聴覚士が介入し、経過を観察し、訓練を実施しています。

よくおこる発音の問題

<開鼻声>

 最も多いのは、鼻(鼻咽腔)と口の奥のほうののどをふさぐ弁がうまく機能せずに、発音するときに空気が鼻のほうへ漏れてしまいます。これを「鼻咽腔閉鎖機能不全」といいます。これにより鼻に抜けてフガフガといった声になります。これを「開鼻声」といいます。この声は、手術の後でも起こることがあります。

鼻咽腔閉鎖不全

鼻咽腔閉鎖不全

<嗄声>

 鼻漏れのせいで、声を出すのに十分な息が足りなくなると、声門を強く閉めようとのどに力が入ります。そうするとしゃがれた声になります。

<発音のあやまり>

① 鼻咽腔閉鎖機能不全によって起こりやすいあやまり

  • 声門を強く閉めながら、のどを詰めたような発音 (声門破裂音)
  • 舌の根元をのどの方へ近づけながら出す音。「サ」行で起こりやすい (咽頭摩擦音)
  • 舌の根元をのどへ押しつけて出す音。「カ」行で起こりやすい (咽頭破裂音)

② その他の発音のあやまり

  • 口腔を無理に閉鎖して鼻にかけた音。クンクン言うように聞こえる (鼻咽腔構音)
  • 舌の前の方を使う音が、後ろへ移動する (口蓋化構音)
    「タ」→「カ」に、「サ」→「ヒャ」「シャ」に近い音になる
  • 顎や唇が横にずれて、口の横から息がもれる音。(側音化構音)
    「シ」→「ヒ」、「チ」→「キ」に近い音になる

 また、発音のあやまりが鼻咽腔閉鎖機能不全によって起こったものであり、それが練習でも良くならない場合は、スピーチエイド(鼻咽腔閉鎖を補助する装置)を使ったり、口と鼻を塞ぎやすくする弁をつくるような手術を行ったりする場合があります。

噛みにくい

 口唇裂・口蓋裂があるお子さん(特に口蓋裂)は、他のお子さんに比べて上あごの成長が弱く、上あごが狭くなり、その上あごに合わせて歯並びも狭くなります。永久歯が生えだした6~8歳頃になると上あごの狭さが目立つようになり、これにより歯並びに様々な異常が認められやすくなります。口蓋裂があるお子さんの歯並びの異常としてよく認められるものとして、受け口や奥歯の噛み合わせが反対であること、ガタガタした歯並びがあります。

受け口

受け口

ガタガタした歯並び

ガタガタした歯並び

受け口、奥歯の噛み合わせが反対  

受け口、奥歯の噛み合わせが反対  

 口蓋裂があるお子さんは、これらの歯並びの異常によって見た目が悪いだけでなく、歯磨きがしにくいこと、食べ物がうまく噛めないことがあります。食べ物が噛みにくいことで、体の成長が遅く、ストレスがたまって精神状態にも悪い影響をおよぼすとも言われています。これらの歯並びの異常が見られた場合、早い時期からの矯正歯科治療に取り組みます。最近は、口蓋裂の手術方法の改良により、以前ほど著しい上あごの成長障害はみられなくなりましたが、少しでも満足がいく治療をめざして矯正歯科治療をおこなっていきます。

顔貌

 口唇裂・口蓋裂があるお子さんは、上あごの成長が十分でないことがあります。成長期の頃に上あごの骨の成長をコントロールする治療を受けたお子さんでも、下あごの骨の成長は上あごの骨の成長が終了した後でも生じるため、成長が終了するまで経過を観察する必要があります。
 上あごと下あごの骨の大きさのずれが大きい場合、骨格的な受け口を呈する顔貌となることがあります。骨のズレを改善するためには、口腔外科や形成外科と協力し、あごに対する手術を行うことで上下のあごのバランスを改善することがあります(外科的矯正治療)。

上あごの骨の後退感によって受け口の顔貌を呈している

上あごの骨の後退感によって受け口の顔貌を呈している

成長に伴いくちびるや鼻のひずみが目立つようになる

成長に伴いくちびるや鼻のひずみが目立つようになる

 また、就学前の口唇形成術や鼻形成術を受けられている方でも、成長に伴いくちびるや鼻の形も変化し、ひずみが目立つ場合があります。そのような方は、成長が終了した後、最終的な口唇や鼻の形成を行う場合があります。

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