研究内容

味覚は口の中に入れた飲食物の価値(栄養・危険性)を判断するために重要な感覚です。 味のシグナルは中枢へと伝えられ、快不快の情動や顎顔面応答、唾液・消化液・ホルモン分泌を引き起こし、円滑な食行動の基盤となります。 また、味のセンサーは口腔内にとどまらず、中枢(脳)や消化管など全身に存在することが分かってきています。 当分野では、これら様々な味覚の機能を追及し、口腔・全身の健康維持・増進に向けての取り組みを推進します。

味覚の受 容・伝達・修飾機構の解明

味覚には5つの基本味(甘味、塩味、うま味、酸味、苦味)が認められています。 これまで、味覚のセンサー(受容体)について多くの研究が為され、その分子実態が明らかとなってきています。 また、受容体活性後の細胞内情報伝達機構や味細胞からの伝達物質の放出などについても解明されつつあります。 さらに、味覚感受性は体内の状況に応じて変化し、これには様々なホルモンや生理活性物質が関与することが明らかとなってきました。 われわれは、世界で唯一の味細胞応答記録・解析技術を有し、これまでに味覚の受容・伝達・修飾機構の解明に大きく貢献してきました。 しかし、まだ味覚の世界には多くの謎が残っています。今後は、我々の特異な技術を活かし、味覚の受容・伝達・修飾機能の新たな局面を切り開いていきま す。

味蕾 実験セット 味細胞応答記録


口腔外の 味覚センサの新たな機能

味覚のセンサーは、味蕾内のみならず、全身の様々な器官に発現し、様々な機能を担うことが明らかとなってきています。 例えば、気道の繊毛細胞や化学受容細胞に苦味の受容体が発現し、バクテリアから放出される分子(クオラムセンシング分子)などを受容することで、気道 防御に関わる可能性が示されています。 このような、味細胞以外で発現する味覚のセンサーは、各々の器官で特異的な機能を担っていると考えられます。 これら、全身で機能する味覚センサーの機能について追及し、それらを活かした健康増進・維持の方策を模索します。

気管 全身における味覚センサーの発現 腸


味細胞再 生・分化と神経接続

味細胞は上皮細胞由来の細胞で、そのターンオーバーは早く、約10日で新たな細胞と入れ替わると考えられています。 このような早いターンオーバーの中で、安定的な味覚情報を脳へ伝えるためには、味神経線維は常に同じ味応答特性を持つ味細胞を探し出し接続する必要が あります。 これらの系に異常をきたすと味覚の感受性の低下や味覚異常を引き起こすと考えられます。 味蕾の機能維持・再生を念頭に、味蕾オルガノイドや神経細胞との共培養系を用い、味細胞分化・再生や味細胞−味神経接続に関わる因子や分子機構を追求 し、 味覚感受性維持・改善の方策の構築を目指します。

味蕾オルガノイド