ウイルスゲノムを切断しウイルスの不活性化に成功


本研究室の世良貴史教授、森友明助教(特別契約職員)らの研究グループは、子宮頸がんの原因ウイルスであるヒト・パピローマ・ウイルス(HPV)に特異的に結合して切断する人工制限酵素(DNAを切る人工のハサミ)をデザインし、HPVウイルスの増殖を抑えることに成功しました。

ウイルスは、ヒトに感染し、がん等の様々な病気を依然としてもたらし続けており、ウイルス感染を防ぐ効果的な手法の開発が望まれています。中でも、HPVは、先進国でも若年層への感染の拡大が問題となっており、全世界で女性が罹るがんの中で2番目に多い子宮頸がんの原因ウイルスとして、医学的に重要なターゲットとなっています。

我々は、ウイルスはヒト体内に侵入しても増えなければ病気にならないとの発想の下、細胞内でウイルスを不活性化する新しい手法、すなわちHPVを壊す人工制限酵素を開発しました。この人工制限酵素は、HPVゲノム上の特定の場所に結合するようにデザインされた人工DNA結合タンパク質に、DNAを切断する酵素を融合させたタンパク質です。開発した人工制限酵素の遺伝子を本研究室の方法で合成し、ヒト細胞に導入させると、その細胞内ではHPVの増え方が、人工制限酵素非存在下の場合の4%までに抑えられていました。細胞内からHPVゲノムを取り出し、解析すると確かに狙った場所でウイルスゲノムが切断されていることを確認しています。

また、遺伝子導入だけでなく、タンパク質分子そのものの使用も有効なことも示しました。すなわち、この人工制限酵素にヒトの細胞膜を透過する能力のある短いペプチドを繋げたタンパク質分子を細胞にかけるだけで細胞内へ入っていき、遺伝子導入時と同様にHPVの増殖を効率良く阻害することできました。HPVに有効とされてきたドラッグと比べると、開発したタンパク質は10万倍以上の高い比活性を有しており、新しい抗ウイルス剤として有望視されています。

今回開発した手法はHPVだけでなく、ゲノムがDNAからなるウイルスならどのウイルスにも適応可能です。また、新種のウイルスが出現しても、そのゲノムの一部のDNA配列さえわかればそのウイルスに対するハサミをすぐに創りだすことがき、実用性が極めて高い特徴があります。

本研究の成果は、科学誌PLOS ONEオンライン版に2013年2月20日に発表されました。
論文題目:Gene- and Protein-Delivered Zinc Finger–Staphylococcal Nuclease Hybrid for Inhibition of DNA Replication of Human Papillomavirus



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