当研究室では、革新的なウイルス対策技術の確立に取り組んでいます。最近のエボラ出血熱や鳥インフルエンザの流行が示すように、ウイルスは、人の健康に非常に大きな影響を与え、植物や家畜にも広く感染します。ウイルスの対処において困難なのは、ある特定のウイルスの抗ウイルス剤を開発しても、すぐに変異耐性ウイルスが出現することです。そのため、抗ウイルス剤の開発は、いたちごっこになっています。

私たちは、このサイクルを打破する可能性を秘めた戦略に取り組んでいます。新しいアプローチとして目指しているのは、感染が起こった後にウイルスの増殖を防ぐことです。ウイルスは感染後、ウイルスゲノムの複製起点に、ウイルス複製タンパク質が結合することにより増殖します。それを防ぐために、ウイルスゲノムの複製起点に人工DNA 結合タンパク質を結合させます。そうすると、ウイルス複製を開始するウイルス複製タンパク質が結合できなくなり、ウイルスの増殖を防ぐことができます。

この人工DNA結合タンパク質をウイルスに強い農作物や副作用のない効果的なウイルス製剤の開発に使いたいと考えています。私たちは、これまでにこの技術を植物とヒトに応用することに成功しています。植物においては、主に米国西部でヨコバイ(英名 leafhopper 昆虫の一種)によって感染拡大され、数百種の植物に影響を与えている BSCTV(beet severe curly top virus)ウイルスに適用し、成功しました。

この技術をヒトのウイルスにも用いています。具体的には、子宮頸がんの原因ウイルスであるヒトパピローマウイルスに対する抗ウイルス製剤の開発です。子宮頸がんの予防ワクチンは既に開発されていますが、様々な副作用が報告されています。新たに開発した抗ウイルス製剤は、薬品ではなく、肉や野菜、私たちヒトにもあるタンパク質から作成されたものなので、副作用がないことに自信を持っています。

このウイルス不活性化技術は、多くの将来的な可能性を秘めています。この技術の特徴は、変異耐性ウイルスの出現を最小限に留めながら、ウイルスの増殖を完全に防げることです。もし、アフリカの主要穀物であるキャッサバにウイルス耐性を付与できれば、アフリカの人々を食糧危機から救うことができるでしょう。また、鳥インフルエンザや口蹄疫への動物医薬ができれば、周辺の家畜への感染被害を防ぐことも可能になるのです。これらの技術が 実現されれば大きな経済的効果をもたらすことでしょう。