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大麦の酸性土壌環境適応力を解明

 ビールや味噌の原料、飼料などとして広く使われている大麦は世界で4番目に生産量の多い穀物です。元々近東に起源する大麦は人間の活動によってその栽培域が拡大され、現在熱帯を除く世界中で栽培されています。我々は大麦が一遺伝子の変化によって東アジアの酸性土壌に適応した仕組みを解明しました。この遺伝子(HvAACT1)は元々必須元素の鉄を輸送するために必要なものですが、東アジアで栽培されている品種では、この遺伝子の上流に約1000塩基対(1kb)の挿入が見られました。この挿入はHvAACT1の発現量を高めるだけでなく、発現部位も根の中心柱から根端へと変化させました。その結果、酸性土壌に適応できるように進化しました。今後、この仕組みを利用すれば、酸性土壌に適応する作物の作出に寄与できます。
  • 大麦(オオムギ)は約1万年前の近東に起源します。その後、人間の活動によって栽培域が広がり、現在は熱帯を除く世界中で栽培され、コメ、トウモロコシ、コムギに次ぐ4番目に生産量の多い穀物となり、ビールや味噌の原料、飼料などとして広く使われています。
  • 大麦が起源する環境は、乾燥した気候で主にアルカリ土壌です。したがって、栽培域が拡大していく中で、大麦はそれぞれの環境に適応する能力を獲得しなければなりません。特に現在広く栽培されている東アジアでは、酸性土壌が多く分布しています。酸性土壌では土壌からアルミニウムイオンが溶け出し、その毒性によって耐性のない植物は生育が阻害されてしまいます。
  • 我々はアルミニウム毒性に強い大麦品種を研究してきた過程で、これらの品種は根からクエン酸を分泌してアルミニウムを無毒化していることを突き止めました。またクエン酸の分泌を司る遺伝子HvAACT1を世界で初めて同定しました。さらにアルミニウム耐性品種は恒常的にHvAACT1の発現量が高いことを明らかにしてきました。
  • 今回、この発現制御機構を研究している過程で、アルミニウム耐性品種がHvAACT1遺伝子の上流に約1000塩基対(1kb)の挿入があることを突き止めました。この挿入は、プロモーターの役割を果たし、HvAACT1の発現量を増加させるだけでなく、発現部位を根の中心柱から根端へ変化させました。その結果、根の先端をアルミニウム毒性から守る役割をしていることを明らかにしました。世界各国の栽培大麦245品種及び野生大麦154種類を調べたところ、この挿入は東アジアに栽培されている20品種にしか存在せず、東アジアの酸性土壌に適応するために進化してきた仕組みだと考えられます。
  • さらに、この遺伝子の起源を解析したところ、本来この遺伝子は必須元素である鉄を根から地上部へ輸送するために必要なもので、すべての大麦品種に存在していることがわかりました。
  • このようにたった一つの遺伝子の変化で、大麦が酸性土壌適応力を獲得し、栽培域を拡大してきたことを解明しました。
  • 今後この仕組みを利用すれば、酸性土壌適応力の弱い大麦品種や他の作物に導入し、世界の耕地面積の3~4割を占める酸性土壌でも栽培可能な作物を作出でき、ひいては、食糧問題やエネルギー問題の解決にも貢献できます。

  • 発表雑誌:Nature Communications
  • 発表者:岡山大学資源植物科学研究所・教授・馬 建鋒
  • 添付資料

主な共同研究者
  • 馬 建鋒 岡山大学資源植物科学研究所 教授(代表)
  • 藤井美帆 岡山大学資源植物科学研究所 博士研究員(馬グループ)
  • 横正健剛 岡山大学資源植物科学研究所 博士課程学生(馬グループ)
  • 山地直樹 岡山大学資源植物科学研究所 助教(馬グループ)
  • 佐藤広和 岡山大学資源植物科学研究所 教授
  • 最相大輔 岡山大学資源植物科学研究所 助教

研究助成
  • 文部科学省 新学術領域「植物環境突破力」
  • 農林水産省「新農業展開ゲノムプロジェクト」
  • 生研機構(馬 建鋒)


ネイチャーコミュニケーションズ電子版
http://www.nature.com/ncomms/journal/v3/n3/full/ncomms1726.html

【お問い合わせ先】
資源植物科学研究所 馬 建鋒
(電話番号)086-434-1209

(12.03.07)