国立大学法人 岡山大学

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ヒト化抗HMGB1抗体を用いて脳出血治療の新しいターゲットを発見

2022年09月27日

◆発表のポイント

  • 治療薬開発を目指して、ヒト化抗HMGB1単クローン抗体を作製した。
  • ヒト化抗HMGB1抗体は、実験動物の霊長類マーモセットの脳出血による脳障害と神経症状を軽減した。
  • 抗体治療は脳内炎症を抑制するだけでなく、脳出血によるヘモグロビン処理を促進し、鉄沈着を抑制することで効果を発揮した。

 脳出血は、重篤な後遺症状を残す可能性の高い脳血管疾患です。特に、脳出血の結果赤血球から放出されるヘモグロビンとその代謝物は、生体に対し毒性を発揮するので、脳血管疾患の中でも治療がより困難であると考えられています。
 岡山大学学術研究院医歯薬学域創薬研究推進室の西堀正洋特任・特命教授らの研究グループは、株式会社イーベック元会長の高田賢蔵氏(研究開始時は会長)との共同研究で、ヒト治療に応用可能なヒト化抗HMGB1抗体の作製に成功し、ヒトに近い実験動物である霊長類マーモセットの脳出血モデルを用いて、抗体による脳組織の保護効果と神経症状の改善効果を明らかにしました。また、今回の研究で、脳障害によって神経細胞から細胞外へ放出されるタンパク質・High mobility group box-1(HMGB1)が、赤血球から放出されるヘモグロビンの処理に与るハプトグロビンの機能を阻害し、ヘモグロビンの代謝物である鉄化合物を神経組織内に沈着させる可能性を見出しました。抗HMGB1抗体が脳血管のバリアー機能を護り、脳内炎症を抑制することはラットを用いた研究でこれまで明らかにしていましたが、今回よりヒトに近いマーモセットモデルで、新たにヘモグロビンの処理促進を介した効果が示されたことになります。
 ヒト化抗HMGB1抗体を用いた脳血管障害治療開発が、さらに加速することが強く期待されます。本研究成果は、2022年9月23日に国際学術誌Cellsに掲載されました。

◆研究者からひとこと

脳卒中の中でも脳出血は一般的に後遺症状が重篤です。脳出血後に神経組織が受けるダメージを防ぐ薬物治療法は、これまで殆どなかったので、今回のサルモデルを用いた良好な実験結果をもとに、ヒト化抗HMGB1抗体による治療法の開発がさらに前進することを願っています。
西堀特任・特命教授

■論文情報
論 文 名:Treatment of marmoset intracerebral hemorrhage with humanized anti-HMGB1 mAb.
掲 載 紙:Cells, 11(19): 2970, 2022.
著  者:Wang D, Ousaka D, Qiao H, Wang Z, Gao S, Liu K, Teshigawara K, Takada K, Nishibori M.
D O I:https://doi.org/10.3390/cells11192970
U R L:https://www.mdpi.com/2073-4409/11/19/2970

COI: 著者の西堀正洋は、株式会社イーベックと特許(特許第6247646号, 米国US9550825, 欧州EP2949675, 中国ZL201380071400.5, Humanized anti-HMGB1 antibody or antigen-binding fragment thereof)を共同出願し取得している。著者の高田賢蔵は、株式会社イーベックに属していた。

■研究資金
本研究は、日本学術振興会科学研究費(20K17930; 19H03408)の支援を受けて実施しました。

<詳しい研究内容について>
ヒト化抗HMGB1抗体を用いて脳出血治療の新しいターゲットを発見


<お問い合わせ>
岡山大学学術研究院医歯薬学域
特任・特命教授 西堀 正洋
(電話番号)086-235-7393

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