国立大学法人 岡山大学

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一酸化窒素(NO)が大腸癌の発生原因であると解明

2013年10月08日

 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科消化器外科学の田澤大助教とがん研究会がん研究所の河口徳一特任研究助手、鳥取大学医学部病態生化学分野の岡田太教授らの研究グループは、慢性炎症由来の一酸化窒素(NO)がヒト大腸腺腫細胞から大腸癌細胞へ進展する際の原因となることを突き止めました。
 本研究成果は、2013年8月13日、米国科学雑誌『Experimental Cell Research』の電子版に掲載されました。
 炎症性腸疾患は、高い確率で大腸癌を誘発することが知られています。この慢性炎症に伴うNO産生を抑制することで大腸発癌の予防が期待されます。
 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科消化器外科学の田澤大助教とがん研究会がん研究所の河口徳一特任研究助手、鳥取大学医学部病態生化学分野の岡田太教授らの研究グループは、慢性炎症組織から放出される一酸化窒素(NO)が、良性の大腸腺腫細胞から悪性の大腸癌細胞へ進展する際の原因となることを証明しました。過剰なNOの放出を抑える薬剤を投与することで慢性炎症による大腸癌の発生を未然に防ぐ可能性を示しました。
 NOは、血管内皮細胞や神経細胞、炎症細胞などから作られるガス状の分子です。主に恒常性を維持するためのシグナル分子として働いています。炎症細胞から作られるNOは、体内に侵入した細菌やウイルスを攻撃して感染から体を守る働きもしています。しかし、慢性的な炎症が持続する組織では、NOが長期間に渡って過剰に作られるために、正常細胞にもNOが作用してしまいます。NOの暴露が続く場合には、正常細胞の遺伝子やタンパク質の機能を失わせたり、細胞内シグナル伝達が異常になる確率が高まります。このようなNOの作用が繰り返されると発癌などの疾患発症につながると考えられてきました。
 この因果関係を明らかにするために、研究グループは河口徳一特任研究助手が1991年樹立に成功した大腸腺腫細胞株(家族性大腸腺腫症患者由来)の提供を受け、この腺腫細胞を慢性炎症の環境に置くだけで大腸癌へ進展する動物モデルを作りました。
 このモデルにNOを阻害する薬剤(アミノグアニジン)を投与すると、腺腫細胞から大腸癌へ進展するまでの期間が延長しました。さらに、腺腫細胞にNOを持続的に暴露し続けると大腸癌細胞へ進展することも明らかにしました。この大腸癌細胞は、悪性癌細胞の大元と考えられている癌幹細胞にみられるスフェロイド形成能(三次元増殖能)を獲得していました。慢性炎症局所で長期間、過剰に放出されるNOを適度な量に下げることで、炎症によって生じる癌を防ぐ可能性が示されました(図1)。



図1:慢性炎症組織から放出される一酸化窒素(NO)は良性の大腸腺腫細胞から悪性の大腸癌細胞を誘導します。誘導された大腸癌細胞は癌幹細胞様の性質を示すスフェロイドや腫瘍を形成する能力を持っています。NO阻害剤は、慢性炎症によって生じる大腸腺腫細胞からの大腸癌細胞の発生を抑制します。

<見込まれる成果>
 潰瘍性大腸炎やクローン病などの炎症性腸疾患は、わが国では14万人を越える方が罹患しています。この疾患は、炎症が慢性化するにつれて大腸癌を併発するリスクが増加し、また一般の大腸癌に比べて悪性度が高いとされています。しかし、慢性炎症による大腸発癌のメカニズムは未だに不明でした。
 慢性炎症組織から作られるNOが、大腸腺腫細胞から大腸癌細胞へ進展させることを証明した研究成果は、炎症性腸疾患に対し過剰なNO放出を抑えることで発癌予防に結びつく可能性を示しました。この成果は、炎症局所のNO生成抑制を標的とした薬剤開発につながることが期待されます。また、NOによる大腸癌の発生メカニズムを解析することで、最近注目されている癌の元となる癌幹細胞や悪性化癌細胞の発生の糸口を探ることができます。

<補 足>
 細胞は本来、さまざまな基質に接着して増殖します。しかし、癌細胞の多くは基質に接着しなくても(浮遊状態)互いに癌細胞同士が結合し、腫瘍塊を作って増殖することができます。スフェロイドとは、浮遊した状態で作られる細胞塊を意味します。一般に正常細胞や良性もしくは悪性度の低い癌細胞では、スフェロイドを形成して増殖することができませんが、悪性度の高い癌細胞や癌幹細胞様の細胞では形成します。スフェロイドを形成する能力の有無を利用して、癌細胞の悪性度を比較することができます。

 本研究は、独立行政法人日本学術振興会(JSPS)基盤研究(C)、文部科学省特定領域研究、厚生労働省がん研究助成金の助成を受け実施しました。

発表論文はこちらからご確認いただけます

発表論文:Tazawa H, Kawaguchi T, Kobayashi T, Kuramitsu Y, Wada S, Satomi Y, Nishino H, Kobayashi M, Kanda Y, Osaki M, Kitagawa T, Hosokawa M, Okada F. Chronic inflammation-derived nitric oxide causes conversion of human colonic adenoma cells into adenocarcinoma cells. Exp Cell Res, 2013, in press. (doi: 10.1016/j.yexcr.2013.08.006.)

報道発表資料はこちらをご覧ください


<お問い合わせ>
(所属)岡山大学大学院医歯薬学総合研究科
     消化器外科学 助教
(氏名)田澤 大
(電話番号)086-235-7491
(FAX番号)086-235-7492
(URL)http://www.ges-okayama-u.com/

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