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アスベスト曝露による癌発症機序の謎:喫煙者と非喫煙者のアスベスト繊維を包む含鉄タンパク質の地球化学的特徴から明らかになったこと

2023年05月12日

◆発表のポイント

  • 悪性胸膜中皮腫は、吸引されたアスベスト繊維によって引き起こされる胸膜の癌です。アスベスト繊維は、肺組織に固定されると、フェリチンと呼ばれる含鉄タンパク質を表面に蓄積し、アスベスト小体へと成長します。しかし、アスベスト小体が癌を引き起こす理由は十分に理解されていません。
  • これまでの研究により、アスベスト小体の外的特徴が記述されていました。しかし、アスベスト小体の直径は数ミクロンと小さく、その内部構造は明らかにされていませんでした。
  • 本研究では、悪性胸膜中皮腫患者(喫煙者と非喫煙者)の肺組織から採取されたアスベスト小体を厚さ約 0.1ミクロンの輪切りにして、透過型電子顕微鏡を用いて観察しました。
  • 喫煙者と非喫煙者のアスベスト小体を比較したところ、形態および化学組成に違いが観察されました。喫煙者のアスベスト小体は非喫煙者のそれに比べ、密度が高く、小さく、鉄に富んでいました。常習的な喫煙により継続的に鉄が肺に供給されるからだと考えられます。

岡山大学惑星物質研究所の中村栄三特任教授らの研究グループは、悪性胸膜中皮腫患者(喫煙者と非喫煙者)の肺全摘手術後の肺組織からアスベスト小体を分離し、地球化学的手法を応用し、これらを比較観察しました。喫煙者と非喫煙者のアスベスト小体について、形態および化学組成に差異が認められました。喫煙者のアスベスト小体は、非喫煙者に比べて小さく、密度が高く、鉄に富んでいました。分析されたすべてのアスベスト小体を構成する含鉄タンパク質中の鉄は水酸化鉄の中でも結晶性の極めて低いフェリハイドライトから構成されることが明らかになりました。このことは、フェリハイドライトが含鉄タンパク質の殻に包まれたままであり、遊離鉄イオンの発生を抑えていると考えられます。従って、アスベスト小体中の鉄分が触媒となり活性酸素を生成している可能性は低く、活性酸素が悪性胸膜中皮腫の原因でないことを示唆します。

◆研究者からひとこと

小惑星リュウグウの研究で用いた地球化学的手法は人体に関係する研究にそっくりそのまま応用できます。宇宙を支配する摂理と同じ摂理がヒト内部の物質の挙動を決めるのです。引き続き、惑星物質について分け隔たりなく、物質の進化を理解していこうと思います。
中村栄三特任教授

■論文情報
論文名:An investigation of the internal morphology of asbestos ferruginous bodies: constraining their role in the onset of malignant mesothelioma
邦題名「アスベスト曝露による癌発症機序の謎:喫煙者と非喫煙者のアスベスト繊維を包む含鉄タンパク質の地球化学的特徴から明らかになったこと」

掲載誌:Particle and Fibre Toxicology
著者:Maya-Liliana Avramescu, Christian Potiszil, Tak Kunihiro, Kazunori Okabe, and Eizo Nakamura
DOI:10.1186/s12989-023-00522-0
URL:https://doi.org/10.1186/s12989-023-00522-0

<詳しい研究内容について>
アスベスト曝露による癌発症機序の謎:喫煙者と非喫煙者のアスベスト繊維を包む含鉄タンパク質の地球化学的特徴から明らかになったこと


<お問い合わせ>
岡山大学惑星物質研究所
岡山大学自然生命科学研究支援センター
特任教授 中村栄三
(電話番号)0858-43-3745(FAX番号)0858-43-3745

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