◆発表のポイント
- 日本でもっとも飲まれているお酒であるビールに癌抑制効果があることを見出しました。
- マウス肺発癌実験において、ビールやノンアルコールビールを餌に混ぜて投与したマウスでは、ただの餌を投与したマウスに比べ、同じ量の発がん物質を投与しても出来た腫瘍数は有意に少なく、約半数のマウスには腫瘍は見られませんでした。
- 肺癌の抑制機構を調べると、がん細胞の発生と成長の両方を抑制していることがわかりました。
岡山大学大学院医歯薬学総合研究科の高田 潤大学院生は、岡山大学学術研究院医歯薬学域(薬) 有元佐賀惠元准教授、岡山大学病院 木浦勝行元教授とともに、マウス肺癌モデルにて、ノンアルコールビールやアルコールを除いたビールを餌に混ぜてマウスに食べさせておくと、肺発癌物質による肺悪性腫瘍の発症数が有意に減少し、うち約2〜5割(15匹中3〜8匹)のマウスには悪性腫瘍が発生しなかったことを明らかにしました。また、その発癌抑制の作用機構は、DNA傷害に対するビール成分による修復促進による癌発症予防、およびがん細胞の増殖シグナル伝達阻害により、癌細胞の増殖を抑制すること、などであることを明らかにしました。
これらの研究成果は6月7日、Springer Natureの雑誌「Genes and Environment」(インパクトファクター2.627)のResearch Articleとして掲載されました。
治療法の進歩により、癌は必ずしも死ぬとは限らない病気になりましたが、依然として日本人の死亡原因の一位です。癌発症に生活環境、特に食品・飲料・嗜好品などが大きく影響することが知られており、癌予防法解明への一歩となることが期待されます。
◆研究者からひとこと
普段から飲むビールやノンアルコールビールが癌の予防に役立てばと思い、研究を行ってきました。ビールやノンアルコールビールとタバコはよくあるセットです。まだマウスレベルですが、癌の発症と成長の両方を抑えることが分かり、これが今後の肺癌予防に貢献できることを望んでいます。 | 高田 潤 |
■論文情報
論 文 名:Chemo‑preventive effects and antitumorigenic mechanisms of beer and nonalcoholic beer toward 4 ‑(methylnitrosamino)‑1‑(3‑pyridyl)‑1‑butanone (NNK) ‑ induced lung tumorigenesis in A/J mice
掲 載 紙:Genes and Environment
著 者:Jun Takata, Katsuyuki Kiura, Takamasa Nakasuka, Atsuko Hirabae and Sakae Arimoto‑Kobayashi
D O I:https://doi.org/10.1186/s41021-023-00276-3
■研究資金
本研究は、運営費交付金等で実施しました。
<詳しい研究内容について>
ノンアルコールビールを経口摂取したマウスでタバコに含まれる肺発癌物質に起因する肺腫瘍が有意に減少
<お問い合わせ>
岡山大学大学院医歯薬学総合研究科
博士課程大学院生 高田 潤
(電話番号)086-251-7947 (FAX番号)086-251-7947