国立大学法人 岡山大学

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数層グラフェンのパリティ効果(偶奇性)を実験的に解明

2013年11月22日

 岡山大学大学院自然科学研究科地球生命物質科学専攻の後藤秀徳助教、久保園芳博教授らの研究グループは、数層グラフェンの電子の性質が奇数層と偶数層とで決定的に異なることを実験的に明らかにしました。蓄積できるキャリア濃度の層数依存性を詳細に調べることによって、偶数層のグラフェンは放物線形のバンド構造のみをもつのに対し、奇数層のグラフェンはそれに加えて線形のバンド構造をもつことを実証しました。
 本結果は、奇数層グラフェンが単層グラフェンと同様に質量ゼロのキャリアを持つことを意味し、グラフェンを使う超高速・低電力消費のデバイスへの応用の可能性に期待がもたれます。本研究成果は、2013年10月10日に米国化学会発行の『Nano Letters』オンライン版に掲載されました。
<業 績>
 岡山大学大学院自然科学研究科地球生命物質科学専攻の後藤秀徳助教、上杉英里大学院生、久保園芳博教授らの研究グループは、数層からなるグラフェン中の電子の性質が奇数層と偶数層で決定的に異なることを実験的に明らかにしました。このように全系の性質が構成物の偶数か奇数かで決まることはパリティ効果と呼ばれ、自然科学の様々な分野に共通して現れる興味深い性質です。
 グラフェンとは炭素原子が六角格子状に並んだ単原子層であり、これが積層してグラファイトになります。単層グラフェンでは電子のエネルギーが波数に比例する(線形のバンド構造をもつ)ために、相対論的量子力学が適用される特異な物質として興味を集めています。しかし、2層グラフェンは通常の物質と同様に、電子のエネルギーは波数の2乗に比例し(放物線形のバンド構造をもち)非相対論的な量子力学にしたがいます。これまで1、2、3層グラフェンそれぞれ個々の性質は調べられていましたが、偶奇による分類に着目した実験的な研究は行われていませんでした。本研究は、偶数層(2層、4層、…)のグラフェンが放物線形のバンド構造だけを持つのに対し、奇数層(3層、5層、…)のグラフェンは放物線形のバンドに加えて線形のバンドを持つことを実験的に明らかにしました。つまり、奇数層グラフェンにおいても単層の場合と同様、線形のバンドに由来する特異な性質が現れると期待されます。

<見込まれる成果>
 本研究は、グラフェンが重なってグラファイトとなる場合に、連続的にグラファイトに近づいていくのではなく、層数の偶奇(パリティ)によって交互に性質が変化することを示したものです。私たちの得た結果のように、構成物(ここでは層数)の正確な数よりも偶奇性という抽象的な概念によって全体の性質が分類されることは、物質の普遍的な性質をとらえるうえで極めて重要です。さらに本研究は応用面でも大きな意義を持っています。エネルギーが波数に比例する粒子の代表例は質量ゼロの光子です。同様に、単層グラフェンの線形なバンド構造における粒子の質量も非常に小さく、電界によって動きやすい性質があります。単層グラフェンが高速で消費電力の少ない将来の新材料として期待される理由です。本研究は奇数層グラフェンも単層グラフェンと同様、線形バンドをもつことを示したものです。従来、単層グラフェンにのみ期待されてきた質量ゼロのキャリアを利用する超高速・低電力デバイスが、奇数層のグラフェンにも期待できることが実験的に明らかにされたことで、実用的なグラフェンエレクトロニクスへの道が大きく広がりました。

 本研究は、独立行政法人日本学術振興会(JSPS)科研費(22244045, 24654105, 23684028)、独立行政法人科学技術振興機構(JST)日本-EU共同研究(LEMSUPER)、同ACT-C(先導的物質変換領域)、岡山大学エネルギー環境新素材拠点の助成を受け実施しました。

添付資料はこちらをご覧ください

発表論文はこちらからご確認いただけます
発表論文:Hidenori Goto, Eri Uesugi, Ritsuko Eguchi, and Yoshihiro Kubozono, Parity Effects in Few-Layer Graphene, Nano Lett, in press. (DOI: 10.1021/nl402404z)

報道発表資料はこちらをご覧ください


<お問い合わせ>
(所属)岡山大学大学院自然科学研究科
 地球生命物質科学専攻 助教
(氏名)後藤秀徳
(電話番号)086-251-7797
(FAX番号)086-251-7903
(URL)http://interfa.rlss.okayama-u.ac.jp/

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