国立大学法人 岡山大学

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相容れないと考えられていた「氷の規則」と「最密充填構造」を同時に満たす“未知の氷”がナノチューブ内では存在することを予測!~身近な水の知られざる姿を発見~

2024年01月11日

◆発表のポイント

  • 氷には結晶構造の異なる数多くの種類がありますが、最密充填構造(分子が最大限密に詰まった構造)をもつ氷は見つかっていませんでした。
  • ところが、円筒状のナノチューブ内では、最密充填構造をもつ新しいタイプの氷が分子シミュレーションにより見出されました。
  • ナノチューブ内の最密充填氷には2つのタイプがあることが分かりました。一つは完璧な水素結合ネットワークをもつ水素秩序氷、もう一つはランダムな分子配向をもつプラスチック氷です。

 岡山大学異分野基礎科学研究所の甲賀研一郎教授(理論物理化学)、浙江大学(中国)の望月建爾教授、岡山大学大学院自然科学研究科博士後期課程の足立優司大学院生(当時)の研究グループは、これまで知られていなかった最密充填構造の氷がナノチューブ内では存在できることを分子シミュレーションにより明らかにしました。
 水という身近な物質には18種類もの氷(分子性結晶相)があることが確認されています。しかし、いずれの結晶構造も最密充填構造ではありません。最密充填構造とは、箱に球(例えばテニスボール)が最も密に詰め込まれたときの球の配列です。金、銀、銅など多くの固体での原子配列は最密充填構造ですが、水は高圧条件下でも最密充填構造にはなりません。その理由は、水分子は近接する4分子との間で丁度4本の水素結合を形成すること(「氷の規則」)を優先するからだと理解されてきました。ところが、本研究で初めて、円筒状のナノチューブ内にある水は高圧条件下で自発的に最密充填構造をもつ結晶に変化することが示されました。圧力・温度・チューブ直径を変えることにより、螺旋状あるいは直線状に分子が並ぶ様々な最密充填構造の結晶相が現れます。
 特に注目すべき点は、ナノチューブ内では「氷の規則」と「最密充填」の2つの相容れないと思われていた条件を同時に満たす氷(水素秩序氷)が存在することです。加えて、結晶中の個々の水分子が回転しつづけ、ランダムな分子配向をもつプラスチック氷の存在も明らかになりました。この研究成果は米国化学会ACS Nanoに2023年12月18日付で掲載されました。

◆研究者からひとこと

身近なはずの水や氷の性質には意外に未解明な部分が多く残されています。そのため、最先端実験と理論的研究が世界中で活発に行われています。今回私たちの研究グループは、分子動力学シミュレーションと呼ばれる手法を用いて、ナノ空間内部の水が新しいタイプの氷に変化することを見出しました。今後、ナノチューブ内の最密充填氷が実験により確認されることを期待します。
甲賀教授

■論文情報
論 文 名:Close-Packed Ices in Nanopores
掲 載 紙:ACS Nano
著  者:Kenji Mochizuki, Yuji Adachi, and Kenichiro Koga
D O I:10.1021/acsnano.3c07084
U R L:https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acsnano.3c07084

■研究資金
 本研究は科学研究費(18KK0151, 20H02696)の支援を受けて実施しました。また、本研究は岡山大学と浙江大学の国際共同研究により実施しました。

<詳しい研究内容について>
相容れないと考えられていた「氷の規則」と「最密充填構造」を同時に満たす“未知の氷”がナノチューブ内では存在することを予測!~身近な水の知られざる姿を発見~

<お問い合わせ>
岡山大学異分野基礎科学研究所
教授 甲賀研一郎(こうが けんいちろう)
(電話番号)086-251-7904

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