国立大学法人 岡山大学

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ヘビの警告色・擬態の進化は目立つコストで予測できる

2024年03月07日

 毒をもつ動物は、鮮やかでコントラストの強い体色をしていることがあります。このような体色は警告色と呼ばれ、捕食者に対する警告シグナルとして機能します。しかし、目立つことは代償を伴うかもしれません。東邦大学、京都大学、岡山大学、フロリダ・ガルフ・コースト大学の研究グループは、被食者であると同時に捕食者でもあるヘビを対象に種間比較を行いました。その結果、ヘビにおいては、餌動物に目立ってしまうことによる不利益が、警告色や擬態の進化・多様性において重要な要因となっている証拠が得られました。
 この研究成果は、2024年3月4日に、米国学術誌「Proceedings of the National Academy of Science」に掲載されました。

◆ 発表者名
児島 庸介(東邦大学理学部生物学科 講師)
伊藤 僚祐(京都大学大学院農学研究科 研究員)
福山 伊吹(京都大学大学院人間・環境学研究科 大学院生)
大久保 祐作(岡山大学学術研究院環境生命自然科学学域(工) 講師)
Andrew M. Durso(フロリダ・ガルフ・コースト大学 助教)

◆ 発表のポイント
● 毒ヘビであるコブラ科と毒ヘビに擬態する種を含むマイマイヘビ科を対象に、体色と生態の種間比較を行いました。これらのグループは、 赤×黒や黄×黒のような鮮やかでコントラストの強い体色(ここでは「派手な体色」と呼びます)をもつ種を含みますが、大半の種は地味な体色をしています。
● 体色と生態的形質の間のさまざまな相関が、2つの科で共通して見られました。派手な体色の種は、視覚能力の乏しい動物を餌としたり、色の見えにくい地中や夜間に採餌する傾向がありました。

● 目立つ体色をもつことによる不利益(ここでは「目立つコスト」と呼びます)を、採餌の観点から種ごとに5段階で評価したところ、採餌における目立つコストが小さいほど派手な体色が進化しやすいことが示されました。
● マイマイヘビ科では、派手な体色をしたコブラ科への擬態だけでなく、地味な体色の毒ヘビであるクサリヘビへの擬態が繰り返し進化していました。このような「地味な擬態」は、目立つコストが大きい系統で進化しやすいことが示唆されました。
● 目立つコストは、警告色や擬態の進化と多様性を理解する上で重要な要因であると考えられます。

◆ 発表概要
 研究グループは、コブラ科とマイマイヘビ科を対象に種間比較を行い、目立つコストによって警告色・擬態の進化を予測できるかどうかを検証しました。解析の結果、食性の特殊化、地中性、夜行性といった特徴によって採餌における目立つコストが緩和されている系統で、派手な体色が進化しやすいことが示されました(図2)。また、「地味な擬態」が、餌動物に目立つコストと関連して進化したことを示す証拠も得られました。これらの結果から、ヘビの警告色や擬態の進化と多様性を理解するためには、捕食者による自然選択だけでなく、餌動物による自然選択も重要であることが示されました。

◆ 発表内容
 警告色と擬態は、自然選択による進化の最も美しい例とも言われ、ダーウィンの時代から盛んに研究されてきました。しかし、その進化には多くの謎が残されています。例えば、毒をもつ動物種の多くは、目立つことで捕食者に警告ができるにもかかわらず、地味な体色をしています。警告色の進化を促進する要因については、さまざまな仮説が提唱され、議論が続いています。
研究グループは、文献調査によって194種のコブラ科と238種のマイマイヘビ科の体色と生態に関するデータを収集しました。それらのデータを用いた種間比較の結果、派手な体色と採餌生態の間にさまざまな相関があることが示されました。例えば、派手な体色は、開けた環境での採餌、餌を待ち伏せすること、カエルのような優れた視覚能力と逃走能力をもつ動物を食べることと負の相関を示しました。これとは対照的に、派手な体色は、地中での採餌、夜間の活動、ミミズのような視覚能力に乏しい動物を餌とすることと正の相関を示しました。また、このような相関の多くは、2つの科の間で共通していました。さらに、採餌生態をもとに目立つコストを5段階で評価したところ、コストが小さいほど、派手な体色が進化しやすいことが示されました。これらの結果は、目立つコストの大きさによって、警告色・擬態の進化が予測できることを示しています。
マイマイヘビ科では、クサリヘビに対する「地味な擬態」が繰り返し進化したことが示されました。このような進化の多くは、待ち伏せ型、カエル食、昼行性、開けた環境などの特徴をもち、目立つコストが大きい系統で生じていたことから、目立つコストが地味な擬態の進化を促進した可能性があります。ヘビ類では、本研究で扱った「派手な体色」のほかにも、多様な警告シグナルが進化してきました。コブラ属のフードやガラガラヘビの音の出る尾はその一例です。このように、目立つコストは、単に目立つ形質の進化を抑制するのではなく、警告シグナルの多様性を生み出していると考えられます。本研究の結果は、捕食回避と他の生態学的要求とのトレードオフが、警告色の進化と多様性を理解する上で重要であることを示しています。

◆ 発表雑誌
雑誌名:「Proceedings of the National Academy of Science」(2024年3月4日)
論文タイトル:Foraging predicts the evolution of warning coloration and mimicry in snakes
著者: Yosuke Kojima, Ryosuke K. Ito, Ibuki Fukuyama, Yusaku Ohkubo, and Andrew M. Durso
DOI番号: 10.1073/pnas.2318857121
論文URL:https://www.pnas.org/doi/10.1073/pnas.2318857121

◆ 研究資金
本研究は、科学研究費補助金(18J00809)の支援によって行われました。

ヘビの警告色・擬態の進化は目立つコストで予測できる

◆ お問い合わせ先
【研究に関するお問い合わせ】
東邦大学理学部生物学科
講師 児島 庸介
〒274-8510 千葉県船橋市三山2-2-1
TEL: 047-472-1162 
URL:https://www.toho-u.ac.jp/sci/lab/Sci-Bio-lab-15-.html

【報道に関するお問合せ先】
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