岡山大学
高輝度光科学研究センター
◆発表のポイント
- 地球のマントルには410kmの深さにある不連続面上に2重の低速度層がしばしば観察されますがその成因は謎でした。
- 高圧下でマントルを構成するケイ酸塩物質に水を加えたものを溶かして重い球を落下させることで溶融物の粘性を決定したところ、異常に粘性が低いことが分かりました。
- モデル計算から、上昇するマントル対流の部分で水を含む溶融物が存在する場合に2重の低速度層を再現できることが分かりました。
岡山大学学術研究院先鋭研究領域(惑星物質研究所)の芳野 極教授が参加する、日英仏米の国際的な科学者チームが、地球マントル深部に存在する謎めいた溶融層の成因を調査しました。Nature Communications誌(2025年4月4日)に掲載されたこの研究は、高圧科学技術先端研究センター(HPSTAR)とユニバーシティ・カレッジ・ロンドンに所属する岡山大学出身のロンジャン・シェ博士が主導しました。地球深部の水を含むケイ酸塩メルトの粘性測定から「メルト・ダブレット」と呼ばれる、地球の410 kmのマントル不連続面より上に位置する一対の溶融岩石層の形成過程を解明しました。岡山大学の高圧実験技術とSPring-8の強い放射光を用いて高温高圧下の含水ケイ酸塩溶融物(メルト)の粘性を測定し、モデル計算により、地球深部における溶融挙動がマントルのダイナミクスや水循環に及ぼす影響に関する謎を解き明かしました。この研究によりマントルの対流や化学進化への理解が進むことが期待されます。
◆研究者からひとこと
岡山大学惑星物質研究所で博士の学位を取得した学生との共同研究からこの成果を得ることができました。SPring-8の高輝度放射光と惑星物質研究所の高圧発生技術によって、地球深部の高温高圧状態の物質をその場で観察することができます。研究者を目指す若者が減っていますが、ワクワクドキドキするような体験を我々と一緒にしてみませんか? | ![]() 芳野教授 |
■論文情報
論 文 名:Low melt viscosity enables melt doublets above the 410-km discontinuity(和訳:低粘性メルトは410km 不連続面直上の二重メルト層を生み出すことができる)
掲 載 紙:Nature Communications
著 者:Longjian Xie, Denis Andrault, Takashi Yoshino(芳野 極), Cunrui Han, James O. S. Hammond, Fang Xu, Bin Zhao, Oliver T. Lord, Yingwei Fei, Simon Falvard, Sho Kakizawa(柿澤 翔), Noriyoshi Tsujino(辻野典秀), Yuji Higo(肥後祐司), Laura Henry, Nicolas Guignot & David P. Dobson
D O I:10.1038/s41467-025-58518-7
U R L:https://www.nature.com/articles/s41467-025-58518-7
■研究資金
本研究は、独立行政法人日本学術振興会(JSPS)「科学研究費助成事業」(基盤S・21H04996研究代表:芳野極)、RCUK grants (NE/X009807, NE/T006617研究代表:David Dobson)の支援を受けて実施しました。また、本研究はSPring-8の課題番号2023A1109, 2024A1175で実施しました。ダイヤモンドシーリング技術は、フランスのソレイユにあるプシシェで、課題番号20230084、20220234、20211568、および20201203の支援を受けて開発されました。回収されたサンプルのトモグラフィーは、ClerVolcの2024年度ビジタープログラム(課題番号686)の支援を受けて実施されました。ダイヤモンドカプセルの製造は、英国王立協会の大学研究フェローシップ(UF150057)の形で部分的に支援されました。ビームタイムの実験準備は、岡山大学惑星物質研究所(IPM)の2023年度共同利用・共同研究拠点の支援を受けて行われました。
<詳しい研究内容について>
地球マントルの謎の溶融層の形成メカニズムを解明
<お問い合わせ>
岡山大学 学術研究院先鋭研究領域(惑星物質研究所)
教授 芳野 極
(電話番号)0858-43-3737
(FAX)0858-43-2184
高輝度光科学研究センター 回折・散乱推進室
主幹研究員 肥後 祐司
(電話番号)050-3502-3587
<SPring-8/SACLAに関すること>
高輝度光科学研究センター 利用推進部
普及情報課
(電話番号)0791-58-2785
(FAX)0791-58-2786