◆発表のポイント
- 約21~24億年前に地球の大気に大量に酸素が出現した「大酸化イベント」の原因として、海水中のニッケルと尿素が重要な役割を果たしていたことを明らかにしました。
- 始生代(約40億〜25億年前)の海水を模した環境下で、紫外線による尿素の生成を実験的に確認し、尿素が原始シアノバクテリア2の重要な窒素源となっていたことを示しました。
- 一方で、海水のニッケル濃度が高いとシアノバクテリアの成長が抑制されることも確認し、海水中のニッケルの減少がシアノバクテリアの増殖と酸素濃度の上昇を促したことを示しました。
岡山大学大学院自然科学研究科のDilan M. Ratnayake大学院生(研究当時。現在、スリランカ・ペラデニア大学講師)、学術研究院先鋭研究領域(惑星物質研究所)の田中亮吏教授、学術研究院教育研究マネジメント領域の中村栄三教授(特任)の研究グループは、海水中のニッケルと尿素濃度のバランスによって、シアノバクテリアの成長と酸素放出が制御され、大酸化イベント(Great Oxidation Event, GOE)を引き起こしたことを明らかにしました。
地球史における重大な現象である大酸化イベントが生じた原因については、さまざまなモデルが提案されてきましたが、酸素供給源であったシアノバクテリアが光合成を始めてから大酸化イベントが発生するまでには約10億年の時間差が生じた理由はこれまで分かっていませんでした。
本研究では、始生代の海洋に紫外線が照射されることにより尿素が生成され、その尿素とニッケル濃度バランスによりシアノバクテリアの増殖が制御された結果、この時間差が生じたことを解明しました。さらに、これらの要素が現代の生命のあり方を規定する上で、大きな役割を果たしたことを示しました。
この研究成果は8月12日に、Nature Portfolio「Communications Earth and Environment」オンライン版に掲載されました。
◆研究者からひとこと
この研究は、まるで巨大なジグゾーパズルを完成させるようなものでした。幸い、ピースはほぼ全てそろっていたので、実験そのものは比較的短期間で終えることができましたが、その後の考察やモデルの構築には多くの時間を要しました。思考に研究費はかかりませんので、それが唯一の救いだったと言えるかもしれません。 | ![]() Dilan M. Ratnayake大学院生(研究当時) |
当時大学院生だったディランさんとは、実験計画立案からデータの評価、結果の考察に至るまで、毎日のように議論しました。研究は、当初予想していなかった方向にどんどん進み、最後には地球史における重要な発見につながりました。さまざまな自然現象に対する強い興味とチャレンジ精神を持つディランさんの研究者としての今後の活躍が楽しみです。 | ![]() 田中教授 |
■論文情報
論 文 名:Biogeochemical impact of nickel and urea in the great oxidation event
掲 載 紙:Communications Earth and Environment
著 者:Dilan M. Ratnayake, Ryoji Tanaka, and Eizo Nakamura
D O I:https://doi.org/10.1038/s43247-025-02576-8
U R L:https://www.nature.com/articles/s43247-025-02576-8
■研究資金
本研究は、日本学術振興会科学研究費(20K04108、23K17707、24K00745)、科学技術振興機構次世代研究者挑戦的研究プログラム(JPMJSP2126)の支援を受けて実施しました。
<詳しい研究内容について>
地球大酸化イベントは海洋中のニッケルと尿素が鍵を握っていた
<お問い合わせ>
岡山大学 学術研究院先鋭研究領域(惑星物質研究所)
教授 田中亮吏
(電話番号)0858-43-3748 (FAX)0858-43-2184