国立大学法人 岡山大学

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温熱効果が慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者の病状を改善させる

2014年02月03日

 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科老年医学分野の光延文裕教授、KKR高松病院の菊池宏呼吸器内科医長らの研究グループは、和温療法による温熱効果が慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者の肺機能と運動耐容能に改善をもたらす可能性があることを世界で初めて、非ランダム化対照臨床試験で明らかにしました。
 本研究成果は2013年12月23日、ニュージーランドの慢性閉塞性肺疾患を取り扱うオンライン科学雑誌『International Journal of COPD』に掲載されました。
 現在、和温療法は心不全に対する先進医療として実施されていますが、今後増加傾向にあるCOPD患者に対しても有効性が明らかとなれば、COPDの安全な非薬物療法としても普及していくことが期待されます。
<業 績>
 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科老年医学分野の光延文裕教授、KKR高松病院の菊池宏呼吸器内科医長らのグループ5人は、2010年4月から2011年5月までに慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者20名を研究参加の同意がとれた順に交互に2群に割りつけ、比較対照試験を実施しました。
 その結果、肺機能検査に関しては、肺活量、最高呼気流速の変化量は、対照群を凌ぐ傾向を認めました。また末梢の細い気道の狭窄状態の変化を鋭敏に示すといわれる50%呼出努力性肺活量の呼気流速(FEF50)の変化量は、有意に和温療法群が勝っていました(図1)。
 COPD患者においては、吸った息を十分吐ききることができないために、吸うことも困難になるという悪循環が、運動時の呼吸困難を引き起こすと考えられています。つまり和温療法を行った群の方が、息を吐きやすくなったと考えられます。
 一方、6分間歩行試験では歩行距離、最大ボルグスケール値、最小酸素飽和度、最大心拍数の変化量に2群間に統計学的に有意な差は得られませんでした。しかし、和温療法群においては、最大ボルグスケール値(歩行時の息切れ指標)とともに歩行距離の改善傾向がみられるなど運動耐容能の改善効果(息切れを感じることが少なくなるため、より長い距離を歩くことができるようになること)も期待できる結果でした(表1)。

図1. 50%呼出努力性肺活量の呼気流速(FEF50)の変化量.P=0.019(統計学的に有意),
Mann-Whitney検定.数値は、中央値(25%~75%tile)で表示      掲載論文より(改変)

表1. 4週間前後の6分間歩行試験の変化
数値は、平均値±SD、または中央値(25-75% タイル)で表示           掲載論文より(改変)

 和温療法では、一般的に心臓から送りだされる血液量が倍以上に増加します。血流増加作用で血管内皮細胞が刺激され、血管拡張作用のある一酸化窒素が合成されると報告されています。
 今回の研究結果から、和温療法が呼吸器系にも作用している可能性が示唆されました。具体的には気道拡張作用、気道系への抗炎症作用が今回の研究結果をもとに推測されました。

<見込まれる成果>
 高齢化が進み、COPD患者はますます増加傾向です。慢性疾患であり、進行する労作時呼吸困難を中心とした呼吸器症状が出現してきます。通常は、病院に受診しCOPDと診断されると吸入気管支拡張薬などが処方されます。薬物療法だけではなく、リハビリテーションも欠かせない治療です。しかし、一般的にはリハビリテーションが十分に行える医療施設は多くありません。特に運動療法は、息切れ感が強い重症COPD患者にとってはしばしば困難となります。
 和温療法は重症度にかかわらず持続的かつ安全に行える有効な非薬物療法として、将来的に選択肢となり得ると期待されます。また肺だけでなく病気の進行に伴う心臓への負担を軽くすることや温熱効果がもたらす心地よさがメンタル面によい影響を与えることも期待されます。
 したがって、今後さらに大規模な臨床試験による検証が必要ですが、今回の研究ではCOPD患者の非薬物治療として和温療法の有効性が期待できる結果が得られました。

<補 足>
 和温療法は温熱療法の一つで、1995年鹿児島大学の鄭忠和先生らが、うっ血性心不全患者に対して初めて有効性を報告した治療法です。現在、先進医療として慢性心不全患者に適応となり、循環器専門医のいる医療施設で使用されています。具体的には、60度の乾式温熱サウナ室で座位もしくは臥位になり15分間全身を温めた後、30分臥位になり毛布にて全身を保温します。脱水防止のためサウナ入浴前後に適度な水分摂取を行います。

和温療法医療施設の一例(岡山大学病院三朝医療センター)

発表論文はこちらからご確認いただけます
発表論文:Kikuchi H, Shiozawa N, Takata S, Ashida K, Mitsunobu F. Effect of repeated Waon therapy on exercise tolerance and pulmonary function in patients with chronic obstructive pulmonary disease: a pilot controlled clinical trial. Int J Chron Obstruct Pulmon Dis, 2014, 9, 9-15; (doi: 10.2147/COPD.S50860. Epub 2013 Dec 12.)

報道発表資料はこちらをご覧ください


<お問い合わせ>
(所属)岡山大学大学院医歯薬学総合研究科
老年学分野 教授
(氏名)光延 文裕
(電話番号)0858-43-1211
(FAX番号)0858-43-1305
(三朝医療センターのページ)//www.okayama-u.ac.jp/user/misasa/

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