国立大学法人 岡山大学

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膵がんに薬が届くのを阻む「線維化障壁」の形成メカニズム解明:コラーゲンの生理活性を標的とした治療戦略開発に期待

2025年11月07日

岡山大学
東北大学

◆発表のポイント

  • 代表的な難治がんである膵がんでは、がん細胞を囲う「線維化」が、薬剤のがん細胞への到達に対する「障壁」となり、治療成績を悪化させます。
  • 線維化組織中のコラーゲンは薬剤送達を物理的に妨害すると考えられていましたが、本研究では初めてコラーゲンの生理活性の寄与を明らかにしました。
  • コラーゲンの生理活性(シグナル)を標的とすることで、膵がんにおける「線維化障壁」を克服する新たな治療戦略につながると期待されます。

 岡山大学学術研究院医歯薬学域(薬)の田中啓祥助教、学術研究院ヘルスシステム統合科学学域の狩野光伸教授、東北大学大学院医学系研究科の正宗淳教授らの研究グループは、膵がんの特徴であり、難治化の原因である「線維化障壁」の形成に、線維性タンパク質・コラーゲンの生理活性が重要な役割を果たすことを初めて明らかにしました。これらの研究成果は2025年10月31日、科学雑誌「Small」に掲載されました。
 多くのがんにおいて治療成績が近年改善している中で、膵がんの5年生存率はいまだ1割ほどです。膵がんにおいて、がん細胞周囲に特徴的に認められる「線維化」は、薬剤のがん細胞への到達を阻む障壁となり、治療成績を悪化させます。特に、線維化組織中に最も多量に存在するコラーゲンが、薬剤送達を物理的に妨害することで「線維化障壁」が形成されると従来考えられていました。
 本研究では、独自の立体培養技術を駆使して、線維化障壁形成メカニズムを解析し、コラーゲンの「物理的な線維」としての寄与に加え、「生理活性を有するシグナル分子」としての寄与を突き止めました。本研究成果は、コラーゲンの生理活性を標的とした治療戦略の開発による膵がんの「線維化障壁」克服の可能性を示唆するもので、膵がんの治療成績の改善を実現していく足掛かりとなることが期待されます。

◆研究者からひとこと

学生の大平真由さん(薬学部薬学科5年)と北村萌さん(薬学部薬学科卒業)の力作です。従来、薬が届くのを物理的に妨害する因子として考えられてきたコラーゲンの、「線維化障壁」形成への寄与の多面性を明らかにした研究で、新たな標的化戦略の糸口になることを期待しています。
田中助教

■論文情報
論 文 名:Collagen Signaling via DDR1 Exacerbates Barriers to Macromolecular Drug Delivery in a 3D Model of Pancreatic Cancer Fibrosis
掲 載 誌:Small
著  者:Mayu Ohira, Moe Kitamura, Hiroyo Iwasaki, Haruko Ohta-Okano, Hiyori Tsujii, Reika Nakamura, Takuya Nakazawa, Akihiro Nishiguchi, Masaya Yamamoto, Kensuke Osada, Shinichi Toyooka, Horacio Cabral, Atsushi Masamune, Mitsunobu R. Kano, Hiroyoshi Y. Tanaka
D O I:10.1002/smll.202506926
U R L:https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/smll.202506926

■研究資金
 本研究は、科研費(JP24H00787, JP21H03832, JP21K19014, JP23K24312, JP23H02653, JP26293119, JP23K06279, JP20K16989)、JST共創の場形成支援(COI-NEXT)プログラム(JPMJPF2202)、公益財団法人 ハーモニック伊藤財団、公益財団法人 稲盛財団、公益財団法人 ホクト生物科学振興財団、公益財団法人 薬学研究奨励財団、公益財団法人 日本応用酵素協会、公益財団法人 日本膵臓病研究財団、公益財団法人 山陽放送学術文化・スポーツ振興財団、公益財団法人 両備檉園記念財団、公益財団法人 川崎医学・医療福祉学振興会の支援を受けて実施しました。

<詳しい研究内容について>
膵がんに薬が届くのを阻む「線維化障壁」の形成メカニズム解明:コラーゲンの生理活性を標的とした治療戦略開発に期待


<お問い合わせ>
岡山大学学術研究院医歯薬学域(薬)
助教 田中啓祥
(電話番号/FAX)086-251-7967

東北大学大学院医学系研究科消化器病態学分野
教授 正宗淳
(電話番号)022-717-7171

年度