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高圧で氷が融ける新しいしくみを発見

 岡山大学大学院自然科学研究科大学院生(博士後期課程)の樋本和大氏、同研究科理論化学研究室の松本正和准教授、田中秀樹教授の研究チームは、高温高圧で氷が融ける新しいメカニズムを発見しました。
 本研究成果は2013年12月23日、イギリス王立化学協会の国際科学雑誌『Physical Chemistry Chemical Physics』オンライン版に掲載されました。
 今回の発見は、水の持つ、また別の変わった一面を示すもので、高圧の氷で新たに異常な性質がいくつも見つかる可能性を示しています。また、惑星や衛星の地質や気象を、より正確に理解し予測するのに役立つと期待されます。
<業 績>
 岡山大学大学院自然科学研究科大学院生(博士後期課程・日本学術振興会特別研究員DC)の樋本和大氏、同研究科理論化学研究室の松本正和准教授、田中秀樹教授の研究チームは、コンピューターシミュレーションによって、高温高圧での氷が融ける新しいメカニズムを世界で初めて発見しました。
 3万気圧以上の高圧で生じる氷(氷VII、「こおり7」と読む*1)は、融点がいまだに確定しておらず、その融解のしかたについても不明でした。同研究グループでは2008年に、コンピューターシミュレーションによって、氷VIIが融ける際にプラスチック氷*2と呼ばれる中間状態を経ることを明らかにしていました*3が、本研究では、氷VIIからプラスチック氷への相転移*4をさらに詳しく調べることで、この相転移において臨界現象*5と呼ばれる異常性が現れることが見いだされました。

<見込まれる成果>
 水は私たちに最も身近な物質ですが、4℃で密度が最大になる、固体のほうが液体よりも密度が低いために氷が水に浮く、といった変わった性質をたくさん持つ物質です。一方、臨界現象では一般に、熱容量が非常に大きくなったり、音速がゼロになるなど、物性にさまざまな異常が現れることが知られています。臨界現象は超流動や超伝導などのさまざまな物理現象にも関与し、物理学では広く関心が持たれている現象です。しかし、水に関しては、臨界現象は気液臨界点以外では観察されないと、これまでは考えられてきました。
 今回の発見は、水の持つ、また別の変わった一面を示すもので、氷VIIの融点を確定するヒントを与えるとともに、氷VIIの融点付近で新たに異常な性質がいくつも見つかる可能性を示しています。地球上では、このような超高圧の氷が自然に生じることはありませんが、惑星や衛星の地質や気象を、より正確に理解し予測するのに役立つと期待されます。

<用語解説・参考文献>
1) 氷VII
 氷に高い圧力を加えると、結晶の構造が変化します。氷には10種類以上の結晶構造が知られており、それぞれ番号で呼ばれます。「氷VII」はその中でも最も高圧で生じる、密度の高い氷の一種です。超高圧下では、氷の融ける温度(融点)は通常の氷よりもずっと高くなり、氷VIIの融点は100℃をはるかに越えます。多数の実験研究にもかかわらず、氷VIIの融点はいまだに確定されておらず、世界中の研究者が解明に向けて研究を進めています。

図1
(a) いろいろな氷の構造。これまでに実験で16種類の氷が見つかっています。黒い枠で囲ったものが氷VII。なお左端にあるのが、日常生活で目にする氷(氷I)(b) 氷の相図(=ある状態の氷が存在する温度圧力範囲を境界線で区切った図)。横軸は絶対温度、縦軸は圧力。ローマ数字は氷の種類を示しています(c) 実験で観測された氷VIIの融解曲線(=融点の温度圧力変化)。各プロットに添えたラベルは、論文の第一著者と発表年。融点は実験ごとにばらついています
2) プラスチック氷
 氷VIIの融点がはっきり定まらない理由として、氷VIIが融ける際に、一気に液体に変化するのではなく、一旦「プラスチック氷」と呼ばれる、液体と固体の中間状態(水分子は氷VIIの結晶と同じく格子状に並び、移動はできないが、その場で回転できる)を経るというメカニズムを、2008年に本研究グループが世界で初めてコンピューターシミュレーションにより提唱しました(下記3参考)。本研究は、この状態変化をさらに精密に調べたものです。

図2
氷VIIとプラスチック氷と水の構造の違い。氷VIIでは水分子の位置も向きも固定されています。水では水分子がてんでばらばらに動いています。プラスチック氷はこれらの中間で、水分子は氷VIIと同じ位置に固定されていますが、自由に回転できます

3) 参考文献
 Y. Takii, K. Koga, and H. Tanaka, A plastic phase of water from computer simulation. Journal of Chemical Physics 128, 204501 (2008); DOI:10.1063/1.2927255
  http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/18513026

4) 相転移
 氷が水になったり、水が沸騰したりする変化では、分子そのものは化学変化をしませんが、分子の集まり方が変化し、それによって物質の性質が大きく変化します。このような状態変化は「相転移」と呼ばれます。金属が絶縁体に変化したり、磁性体が磁性を失う変化なども相転移に含まれます。

5) 臨界現象
 相転移のうち、熱容量が非常に大きくなったり、音速がゼロになるなど、物性にさまざまな異常が現れるタイプのものは「臨界現象」と呼ばれます。水の場合、気液臨界点(374℃、218気圧)でのみ、臨界現象が観察されると考えられてきました。気液臨界点よりも低い圧力では通常の気液相転移(沸騰現象)が観察され、高い圧力では気体と液体の区別がなくなって、温度を上げると連続的に液体が気体に変化します。
 臨界現象は、さまざまな異常性をともなうという点で興味深いのですが、もっと重要なことは、いろんな物質の、見た目には全く異なる臨界現象の間に、共通の特徴があるという点です。水で新たに発見された臨界現象(“三重臨界現象”)は、例えばヘリウム混合物の超流動現象で起こる臨界現象とは共通の特徴をもつ一方、水の気液臨界現象とは別の種類だと推測されました。この種類の臨界現象を分子シミュレーションでつきとめたのは、この研究が世界で初めてです。

 本研究は、独立行政法人日本学術振興会(JSPS)科学研究費補助金(25・7704)の助成を受け実施しました。

発表論文はこちらからご確認いただけます

 氷VIIとプラスチック氷を比較した動画は「YouTube」にてご覧になれます。
“Ice VII, Plastic Ice, and their Critical State”
(https://www.youtube.com/watch?v=hiTjZ1uMYXk)

発表論文:K. Himoto, M. Matsumoto, and H. Tanaka, Yet another criticality of water. Phys. Chem. Chem. Phys. (2013); DOI: 10.1039/c3cp54726d.

報道発表資料はこちらをご覧ください


<お問い合わせ>
(所属)岡山大学大学院自然科学研究科
理論化学研究室 准教授
(氏名)松本 正和
(電話番号)086-251-7846
(理論化学研究室のページ)http://theochem.chem.okayama-u.ac.jp