国立大学法人 岡山大学

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乳がん患者さんの「心の支え」を目指したAIピアサポーターを開発

2025年11月26日

◆発表のポイント

  • 乳がん患者さんが化学療法中に抱える多様な不安や悩みに寄り添うAIボット(AIピアサポーター: 同じ疾患のある人を助ける活動を行う人)を開発しました。
  • 乳がん経験者として専門医が設計したAIと、日中の多忙な時間帯を避け、患者さんの好きなタイミング(夜間など)で対話が可能になります。
  • 本AIの介入が患者さんのQOL(生活の質)に与える影響の検証を岡山大学病院で開始します。

 岡山大学学術研究院医歯薬学域(医)医療情報化診療支援技術開発講座の長谷井嬢 教授(特任)(整形外科)は、乳がん患者さんの心理的サポートに特化したAIチャットボット(AIピアサポーター)を開発しました。本AIは、長谷井教授(特任)が研究を進めてきた「患者さんの心に寄り添うメンタルケアAI」の技術を基盤としています。乳がん患者さんは、化学療法や手術などに伴う身体的苦痛に加え、再発への恐怖や孤独感など、多様な精神的負担を抱えています。医療スタッフや既存のピアサポートでは時間的な制約や相談への心理的ハードルがあり、患者さんが不安を抱え込んでしまう課題がありました。本AIは、乳がん経験者のピアサポーターとしての対話が可能であり、患者さんは時間や場所を問わず、気兼ねなく悩みや不安について相談することが可能になります。
 本AIピアサポーターの実用性を検証するため、学術研究院医療開発領域(岡山大学病院乳腺・内分泌外科)の枝園忠彦教授、岡山大学病院乳腺・内分泌外科の藤原由樹医員を中心とした実証試験を開始します。本試験では、乳がん治療(周術期化学療法、手術、再発治療)で入院する患者さんを対象とし、12週間のAI利用を通じて、その満足度やQOL評価体制の実行可能性を検証します。本研究は、AIによる心理サポートを、将来的にがん患者さんの標準的なケアとして確立するための、重要な第一歩となります。

◆研究者からひとこと

がんなどの疾患と闘う患者さんは、身体的な苦痛だけでなく、夜間や休日に一人で抱え込む不安や孤独感といった、目に見えないストレスとも闘っています。私たちは、こうした『医療スタッフには言いづらい』『今すぐ誰かに聞いてほしい』という切実な声に応えるため、AIを用いたメンタルケアサポートの開発を続けてきました。今回開発したAIピアサポーターは、専門医が多くの患者さんの経験知見を集約して慎重に設計した『乳がん経験者』のペルソナ(AIキャラクター)が、ピアサポーターとして話をしてくれます。AIだからこそ、時間を気にせず、どんな些細な不安も打ち明けられる『心の支え』の一つになれると信じています。本研究を通じて、AIによるサポートが患者さんのQOL向上にどれだけ貢献できるかを科学的に検証し、将来的にはより多くの患者さんにこの安心感を届けられるよう、開発と改善を重ねてまいります。本取り組みが、がん治療における心理的ケアの新たな選択肢となることを願っています。
長谷井教授

■研究資金
 本研究は、公益財団法人 橋本財団 2024年度 福祉助成金 福祉機器等開発, JST スタートアップ・エコシステム共創プログラム(PSI2024_S1A10)の支援を受けて実施しました。

<詳しい研究内容について>
乳がん患者さんの「心の支え」を目指したAIピアサポーターを開発


<お問い合わせ>
岡山大学学術研究院医歯薬学域(医)医療情報化診療支援技術開発講座
教授(特任) 長谷井 嬢

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