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亜鉛トランスポーターZIP9が免疫細胞のシグナル伝達に関与

-免疫細胞B細胞が正常に抗体産生するためには亜鉛が必須-

本研究成果のポイント
○ZIP9を介して細胞質に放出される亜鉛がB細胞抗原受容体シグナル伝達を制御
○細胞内シグナル伝達因子として働く亜鉛の詳細な機能解明へ前進
○亜鉛と免疫機能の関わりの解明や亜鉛が関わる疾患理解にも貢献

 理化学研究所(野依良治理事長)と岡山大学(森田潔学長)は、細胞内の亜鉛濃度を制御している亜鉛トランスポーター※1「ZIP9」が、細胞小器官の1つであるゴルジ体※2内から亜鉛を細胞質へ放出することを発見しました。さらに、この放出された亜鉛が免疫細胞の1つであるB細胞のシグナル伝達※3制御に関与しており、抗体を産生するために重要であることが分かりました。これは、理研分子イメージング科学研究センター(渡辺恭良センター長)複数分子イメージング研究チームの榎本秀一チームリーダー(岡山大学大学院医歯薬学総合研究科教授兼任)、廣村信副チームリーダーおよび岡山大学大学院医歯薬学総合研究科の谷口将済連携大学院生(同チーム、大学院生リサーチ・アソシエイト)と、京都大学大学院生命科学研究科の神戸大朋准教授らとの共同研究グループによる成果です。
 亜鉛は生命活動には欠かせないミネラルの1つであり、体内で不足するとさまざまな病気を引き起こします。そのため、細胞内の亜鉛濃度は生体内の亜鉛輸送を担う亜鉛トランスポーターという膜タンパク質によって制御されています。また、亜鉛は細胞内で情報を運ぶ因子(細胞内シグナル伝達因子)として働くことが知られていますが、亜鉛トランスポーターによって制御される亜鉛が、どのように細胞内シグナル伝達に作用するかについては十分に解明されていません。中でも、免疫機能をつかさどるB細胞が正常に機能するためには、亜鉛が重要であることが示唆されていましたが、実験的な証拠はありませんでした。
 共同研究グループは、ゴルジ体の膜に局在する亜鉛トランスポーターZIP9に着目し、ニワトリのB細胞に由来する培養細胞「DT40細胞※4」を用いて亜鉛とシグナル伝達の関係性を調べました。その結果、ZIP9が、細胞外からの刺激に応じて、ゴルジ体から細胞質へ亜鉛を放出し、B細胞抗原受容体(BCR)のシグナル伝達を活性化する重要な膜タンパク質であることを発見しました。
 今回の成果は、亜鉛と免疫機能の関連の解明や細胞内シグナル伝達因子として働く亜鉛の詳細な機能、さらには亜鉛トランスポーターの機能不全に起因したさまざまな疾患に対する治療法の開発にも貢献することが期待できます。
本研究成果は、米国のオンライン科学雑誌『PLOS ONE』(3月7日付け:日本時間3月8日)に掲載されます。
1.背 景
 生命活動の維持には、タンパク質や炭水化物などのほかに微量の金属元素が必要であり、亜鉛はその1つです。亜鉛の欠乏は、成長遅延、味覚障害、創傷治癒遅延および免疫不全などの疾患の発症に関わります。亜鉛は細胞の中で酵素や転写因子などのタンパク質と結合し、酵素を活性化したり立体構造を維持したりする働きがあります。また近年、がん細胞や免疫細胞が外からの刺激に応答して増殖・分化する時に細胞内で情報を運ぶ因子(細胞内シグナル伝達因子)として亜鉛が機能していることが報告され、亜鉛が持つ新たな機能として注目されています。
 細胞内の亜鉛濃度は、細胞内や細胞内小器官への取り込みと放出を担う亜鉛トランスポーターとよばれる膜タンパク質により制御されています。免疫細胞の1つであるT細胞は、感染や炎症に対して細胞が応答する際に細胞内シグナル伝達が働いて亜鉛トランスポーターを活性化させ、細胞内の亜鉛濃度を上昇させることが分かっています。
一方、T細胞と同じく免疫細胞の仲間に、抗体産生を担うB細胞があります。感染症などによりB細胞が異物(抗原)に出会うと、B細胞の表面に存在するB細胞抗原受容体(BCR)が抗原と結合し、細胞内のさまざまな分子を介してシグナル伝達(BCRシグナル伝達)が働き抗体を作り始めます。このBCRシグナル伝達に関わる分子群は、T細胞の細胞内シグナル伝達のときと非常に類似しているので、BCRシグナル伝達でも亜鉛の重要性が推察されていました。しかし、今まで実験的な証明は成されておらず、不明な部分が数多く残されたままです。
そこで共同研究グループは、BCRシグナル伝達と亜鉛の関連性を明らかにすることを目的として研究に着手しました。

2.研究手法と成果
 共同研究グループは、ゴルジ体の膜に局在する亜鉛トランスポーターZIP9に着目しました。ZIP9はゴルジ体から細胞質への亜鉛輸送に関わると推測されていましたが実験的な証拠は無く、また細胞質に輸送された亜鉛の働きも不明なままでした。そこで、ZIP9による細胞内の亜鉛濃度調節機能がシグナル伝達の制御に関与する可能性を調べるため、ニワトリのB細胞に由来する培養細胞「DT40細胞」に亜鉛キレーターを投与することで亜鉛をマスキングし、細胞内の亜鉛の作用を抑制しました。すると、BCRシグナル伝達が抑制され、BCRシグナル伝達には亜鉛が必須であることが分かりました。(図1)
次に、ZIP9遺伝子を欠損した細胞株(ZIP9欠損株)を作成し、BCRシグナル伝達分子に対する影響を調べました。通常、B細胞に外部からの刺激として抗原を投与すると、BCRが活性化し、細胞内シグナル伝達タンパク質であるAktやErkのリン酸化を介してシグナル伝達が進行することが分かっています。正常なB細胞(野生株)へ抗原の代わりに亜鉛を投与すると同様のリン酸化が起きましたが、ZIP9欠損株にでは、野生株に比べてリン酸化が減弱しました(図2)。この理由を調べたところ、ZIP9欠損株ではタンパク質のリン酸化を阻害する脱リン酸化酵素プロテインチロシンホスファターゼ(PTPase)※5の活性が野生株に比べて著しく増大していたことが分かりました(図3)。これは、正常なB細胞ではZIP9が放出する亜鉛によってPTPaseの働きを抑えることでシグナル伝達分子AktやErkのリン酸化を促進していることを示唆します。
さらに、ヒトのZIP9も同様な機能を持つかを調べるため、ZIP9欠損株にヒトZIP9遺伝子を導入する実験を行いました。その結果、ニワトリZIP9の欠損により減弱していたAktおよびErkのリン酸化が増加し、増大していたPTPase活性が減少して、野生株とほぼ同等に回復しました(図2、3)。このことから、ヒトZIP9もB細胞のシグナル伝達においてAktおよびErkのリン酸化に重要な役割を果たしている可能性が示されました。
 ZIP9が投与された亜鉛をどのように制御しているかを調べるため、細胞内の亜鉛濃度を検出するためにNewport Green※6とFluoZin-3※6とよばれる亜鉛蛍光プローブを用いて観察しました。Newport Greenは細胞質の亜鉛と反応し、FluoZin-3は細胞質とゴルジ体両方の亜鉛と反応します。まず野生株に亜鉛を投与すると、Newport Greenの発光量が増加しましたが(図4a、b)、ZIP9欠損株に亜鉛を投与すると増加しませんでした(図4c、d)。また、亜鉛投与後のZIP9欠損株ではFluoZin-3の発光量を検出したため(図4j)、亜鉛はゴルジ体に蓄積していることが分かりました。これらから、ZIP9が働かないとゴルジ体に亜鉛が蓄積し、細胞質の亜鉛濃度が上昇しないことが分かりました。さらに、ZIP9欠損株にヒトZIP9遺伝子を導入したところ、細胞質の亜鉛濃度は上昇し、野生株とほぼ同等に回復しました(図4f、l)。
以上から、ZIP9はゴルジ体から細胞質への亜鉛放出に必須のタンパク質であり、細胞外刺激に応答してZIP9により放出された亜鉛は、PTPaseの活性を抑制することでBCRシグナル伝達タンパク質AktやErkのリン酸化を促進することが明らかとなりました(図5)。

3.今後の期待
 亜鉛がT細胞だけではなくB細胞が正常に機能するためのシグナル伝達に関わる重要な因子であることが明らかとなり、亜鉛と免疫機能の関わりの理解がさらに広がりました。これにより、細胞内シグナル伝達因子として働く亜鉛の詳細な機能の解明や亜鉛トランスポーターの機能不全に起因したさまざまな疾患に対する治療法の開発に貢献することが期待できます。

原論文情報:
Masanari Taniguchi, Ayako Fukunaka, Mitsue Hagihara, Keiko Watanabe, Shinichiro Kamino, Taiho Kambe, Shuichi Enomoto, Makoto Hiromura. “Essential role of the zinc transporter ZIP9/SLC39A9 in regulating the activations of Akt and Erk in B-cell receptor signaling pathway in DT40 cells”. PLOS ONE, 2013

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