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地球マントル最下部D”層の謎を解明 ポストペロブスカイト構造の結晶弾性を非弾性X線散乱法により世界で初めて測定

岡   山   大   学 
兵   庫   県   立   大   学
独 立 行 政 法 人 理 化 学 研 究 所
公益財団法人高輝度光科学研究センター

研究成果のポイント
●地球マントル最深部のD”層を構成するMgSiO3ポストペロブスカイトのアナログ物質Cmcm-CaIrO3の結晶弾性を測定した。
●D”層直上にあるMgSiO3ペロブスカイトのアナログ物質であるPbnm-CaIrO3の結晶弾性も測定した。
●ポストペロブスカイト構造の弾性的特徴から、D”層におけるS波地震波速度異常の地域性をポストペロブスカイトの選択配向により合理的に説明した。
 岡山大学地球物質科学研究センター(地球研)の米田明准教授、兵庫県立大学理学部の福井宏之助教、理化学研究所(理研)のアルフレッド・バロン准主任研究員、高輝度光科学研究センター(JASRI)の筒井智嗣副主幹研究員らの研究グループは、大型放射光施設SPring-8※1のBL35XUのX線非弾性散乱装置を用いて、地球マントル最深部に存在する物質、Cmcm-CaIrO3Pbnm-CaIrO3の結晶弾性測定に成功しました。なお、本研究成果は2013年3月27日、英国の科学誌『Nature Communications』に掲載されます。
 地球マントル最深部に存在するD”層の主要構成鉱物がMgSiO3ポストペロブスカイトであることは、2004年に東京工業大学と理研の共同研究により明らかになっています。しかし、ポストペロブスカイト構造における結晶弾性の情報が皆無であるため、D”層で特徴的に観測される地震波速度構造の地域性を解釈できませんでした。試料となるMgSiO3ポストペロブスカイトが常温常圧で不安定なため、その結晶弾性を測定できなかったためです。そこで、研究グループはMgSiO3ポストペロブスカイトのアナログ物質であるCmcm-CaIrO3の結晶弾性を透過力の高い非弾性X線散乱法を用いて測定しました。そして、今回得られた成果により、D”層の地震波速度構造の地域性がMgSiO3ポストペロブスカイトの選択配向の地域性に原因すると結論づけました。
 本研究から、非弾性X線散乱法が不透明鉱物の微小単結晶での結晶弾性測定に有効であるといえます。今後、MgSiO3ポストペロブスカイトの結晶弾性を高温高圧下で観測することが期待されます。
 本研究は学術振興会の基盤研究(S)“川井型装置による核マントル境界の温度圧力発生とマントル最深部実験地球科学の展開”(代表者:米田明)による支援を受けて実施しました。
<背景>
 地球の内部構造は地震波を使って調べられています。図1は地球内部構造を概略で示したものです。外核と下部マントルの境界面の直上にD”層と呼ばれる薄い層(厚さ~200km)があります。この層は上下の層と比較して、地震波速度の地域性や異方性(波の伝搬方向や振動方向によって地震波速度が異なること)が大きく、謎の層として関心がもたれていました。
 2004年に東京工業大学と理研の共同研究により、D”層上面の地震波速度不連続面が下部マントルの主要鉱物であるMgSiO3ペロブスカイトがMgSiO3ポストペロブスカイトに相転移する境界面であることが突き止められました。同成果は固体地球科学における21世紀最大の成果と言えるものです。しかしながら、MgSiO3ポストペロブスカイトの結晶弾性のデータが皆無であるため、地震波で検出されているD”層の地域性や異方性を解釈することは不可能でした。
 MgSiO3ポストペロブスカイトは常温常圧では分解してしまうため、同じ結晶構造を持つCmcm-CaIrO3の結晶弾性の測定を試みました。同時に同じ組成でペロブスカイト構造をもつPbnm-CaIrO3の測定も実施しました。Cmcm-CaIrO3Pbnm-CaIrO3の単結晶合成については、地球研に蓄積されている単結晶合成のノウハウを応用しました。図2が今回合成した単結晶の写真です。

<研究手段と成果>
 鉱物物理学分野において微小結晶の弾性はブリリュアン散乱法というレーザー光を使う方法で測られてきました。今回の試料はともに黒色不透明であるため、ブリリュアン散乱法は適用できません。そこで不透明試料でも測定可能な非弾性X線散乱法を用いることにしました。ブリリュアン散乱法も非弾性X線散乱法もフォノン(試料内の格子振動の音子)とフォトン(光子)の相互作用を測定する点では同じですが、使うフォトンのエネルギーが異なります。
 SPring-8のBL35XU(図3)では12個の散乱光受光素子が並列に設置されており、一回の測定で12個のデータが能率的に取得できるようになっています。20μm程度の微小単結晶試料でも測定できる世界最高水準の装置です。
 入射X線に対し試料の方向を変えた測定を何回か実施し百個程度のデータを取得しました。このデータに対し最小二乗法により結晶弾性を決定しました。図4は得られた結晶弾性から計算した弾性波速度の方位分布をステレオ図で示したものです。
 図5はCmcm-CaIrO3のa-b、b-c、c-a平面内の音速変化を示したものです。a-b平面とc-a平面内での二つのS波速度の大小関係が全く異なるのが見てとれます。この特徴の違いから、地震波で検出されたD”層の地域性をMgSiO3ペロブスカイトの選択配向の様式の違いで説明することができました(図6)。

<今後への期待>
 非弾性X線散乱法により不透明試料の結晶弾性が精度よく決定できることが確認できたため、今後はブリリュアン散乱法では不可能な金属試料の結晶弾性測定も実施していきます。地球の核は金属鉄でできているので、金属試料の測定は固体地球科学においても重要です。
 一方、今回の測定はあくまでMgSiO3ペロブスカイト結晶と同じ構造を持つ結晶での測定であります。真の目標は、D”層の温度圧力条件下(~3000 K,~120 GPa)でのMgSiO3ペロブスカイト結晶弾性そのものをその場測定することです。大変困難な課題ですが、高圧地球科学コミュニティにおける主要課題の一つとして取り組んでいきます。

図1 地球内部構造の概略。東京工業大学ほかによるプレスリリースから転載。
http://www.spring8.or.jp/ja/news_publications/press_release/2004/040409/


図2 測定に使用した結晶試料。ともに岡山大学地球研で合成した。右の光学顕微鏡写真がPbnm-CaIrO3、左の電子顕微鏡写真がCmcm-CaIrO3である。


図3 SPring-8のBL35XUのX線非弾性散乱装置。


図4 右列がPbnm-CaIrO3、左列Cmcm-CaIrO3の弾性波速度のステレオプロットである。上段はP波速度、中段はS波平均速度、下段は二つのS波速度差である。単位はm/s。


図5  Cmcm-CaIrO3の弾性波速度図。黒線は今回の結果に基づくもの、青線は理論計算結果に基づくものである。
理論計算の論文:Tsuchiya, T. & Tsuchiya, J, Structure and elasticity of Cmcm CaIrO3 and their pressure dependence: Ab initio calculations. Phys. Rev. B 76, 144119 (2007)


図6 今回の研究結果に基づくD”層地域性の起源についての考察の纏めたもの。太平洋縁辺部ではc軸が、太平洋中心部ではb軸が鉛直方向に卓越すると結論付けられた。
発表論文:Elastic anisotropy of experimental analogues of perovskite and post perovskite help to interpret D” diversity (ポストペロブスカイトのアナログ物質の結晶弾性測定とD”層の多様性についての考察)
著者:米田明,福井宏之、Fang Xu,中塚晃彦、吉朝朗、瀬戸雄介,小野 謙弥、筒井智嗣、内山裕士、Alfred Q. R. Baron
公表雑誌:Nature Communications
公表日:日本時間(現地時間)2014年3月27日(木)午後7時(英国時間同日午前10 時)


用語解説
※1:大型放射光施設SPring-8
 兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最高の放射光を生み出す理化学研究所の施設で、その運転管理は高輝度光科学研究センターが行っています。SPring-8の名前はSuper Photon ring-8GeVに由来。放射光とは、電子を光とほぼ等しい速度まで加速し、電磁石によって進行方向を曲げた時に発生する、細く強力な電磁波のこと。SPring-8では、この放射光を用いて、ナノテクノロジー、バイオテクノロジーや産業利用まで幅広い研究が行われています。

報道発表資料はこちらをご覧ください


<お問い合わせ>
岡山大学地球物質科学研究センター 准教授
米田 明(よねだ あきら)
TEL:0858-43-3762
FAX:0858-43-2184
地球物質科学研究センター 地球内部物理学研究室ホームページ:http://www.misasa.okayama-u.ac.jp/~hacto/top_j.html