国立大学法人 岡山大学

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ツガザクラは近縁種と異なる系統と判明-日本産高山植物の起源探る新たな糸口に-

2014年06月09日

 岡山大学資源植物科学研究所の池田啓助教らのグループは,日本列島のみに分布する高山植物ツガザクラが,北極圏に分布する近縁種と異なる系統であることを明らかにしました。本研究成果は2014年6月2日に英国の植物学雑誌『New Phytologist』電子版で公開されました。
 日本列島に生育する高山植物は,北極圏やベーリング地域に分布する植物が現在よりも寒冷な氷河期に日本列島まで到来した起源を持つと考えられています。
 本研究成果は,日本列島をはじめとした東アジアにおける高山植物の起源を探る新たな糸口となることが期待されます。
<業績>
 岡山大学資源植物科学研究所の池田啓助教,京都大学,ロシア科学アカデミーの共同研究グループは,ツツジ科ツガザクラ属Phyllodoce系統関係の遺伝子配列を解読し,日本固有のツガザクラが北極圏や北太平洋地域に分布する近縁種とは異なる系統であることを明らかにしました。
 高山植物であるツガザクラの仲間のうち,日本には,日本固有のツガザクラ,日本~北米に分布するアオノツガザクラ,北海道~北半球寒帯に分布するエゾツガザクラの三種が生息しています。そのうち,北極圏に分布する近縁種(広域分布種:アオノツガザクラ,エゾツガザクラなど)は,今から約2万年前頃に寒冷化のピークを持つ最後の氷河期に日本列島に到来したものと考えられています。そのため,日本固有のツガザクラも,広域分布種から派生したものと考えられてきました。
 今回,こうした予想に反して,日本固有のツガザクラが北太平洋や北極圏に広く分布する種から派生したものではなく,それらとは独立した系統である例を初めて示しました。
 本研究成果は,日本固有のツガザクラが,広域分布種が到来したと考えられる約2万年前頃より,古い氷河期に到来したことを意味しています。

<背景>
 日本列島の高い山に生育する高山植物は,北極圏やベーリング地域に分布する植物が現在よりも寒冷な氷河期に日本列島まで到来した起源を持つと考えられてきました。こうした歴史を持つことから,氷河期から生き残った植物と言われます。氷河期は今から約260万年前以降,定期的に繰り返してきたことが知られています。この繰り返しの中で,日本列島の高山植物がいつ頃に到来したものであるかに関する定説はありません。この歴史を紐解く上で,日本列島やその近隣地域に分布する高山植物の遺伝子を解析することは有効なツールになります。

<見込まれる成果>
 氷河期の寒冷化は約90万年前以降から厳しくなったと言われており,本研究でツガザクラは約16.2-57.4万年前に生まれたと推定されています。これは,気候の寒冷化が厳しくなったことで北極圏の植物が日本列島まで到来できた可能性を示唆しています。本仮説は,日本列島をはじめとした東アジアの高山植物の起源を理解するための基盤となることが期待されます。

本研究は文部科学省科学研究費(基盤B海外学術)の助成を受け実施しました。

発表論文:Ikeda H, Yakubov V, Barkalov V, Setoguchi H. Molecular evidence for ancient relicts of arctic-alpine plants in East Asia. 2014.(DOI: 10.1111/nph.12863)
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/nph.12863/abstract

報道発表資料はこちらをご覧ください


<お問い合わせ>
岡山大学資源植物科学研究所
助教 池田 啓
(電話番号)086-424-1661
(FAX番号)086-434-1249

図.ツガザクラ属植物の12個の遺伝子の配列をもとに推定した系統関係(発表論文Fig. 4より改変).日本列島に分布する種は青枠で囲み,それぞれの植物の写真と分布を併記した.


写真.日本固有『ツガザクラ』:2014年5月下旬大山にて撮影

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