国立大学法人 岡山大学

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巨大π電子系フェナセンの合成とトランジスタ作成に成功

2014年06月26日

 岡山大学大学院自然科学研究科(理)の岡本秀毅准教授、久保園芳博教授、ナード研究所の郷田慎氏らの研究グループは、8個のベンゼン環がジグザグに繋がった「[8]フェナセン」と呼ばれる分子の効率的な合成法を開発。この分子は空気中においても極めて安定で,電界効果型トランジスタ(FET)の活性層として用いると、非常に良好なトランジスタ特性を示すことを実証しました。エレクトロニクス用の材料としてπ電子系を拡張したフェナセン系化合物が非常に有用であることを示しています。
 本研究成果は、2014年6月17日にNature Publishing Groupが発行するScientific Reportsにおいて公開されました。
背景:岡山大学の岡本秀毅准教授、後藤秀徳助教、久保園芳博教授、ナード研究所の郷田 慎氏らの研究グループは、ベンゼン環5個がジグザグに繋がった「ピセン」と呼ばれる化合物が有機電界効果型トランジスタ(OFET)の活性層として有用であることを、2008年に、偶然に発見しました。それ以来,ベンゼン環がジグザグに繋がる「フェナセン」類の合成とOFETへの応用を研究してきました.一連の研究の中で、フェナセン分子に含まれるベンゼン環の数を増やし広大なπ電子系を作ると、どのような特性が現れるか興味が持たれていました。

業績:岡山大学とナード研究所の研究グループで、8個のベンゼン環が連なる[8]フェナセンを、光化学反応(Mallory光環化反応)をキーステップとして簡単に合成することに成功しました。それにより、π電子系を拡張したフェナセンのOFETを作製するのに必要な量の試料を得ることができ、トランジスタ特性の評価が可能になりました。[8]フェナセンを、酸化シリコン薄膜上に蒸着して作製したOFETデバイスは、1.74 cm2 V-1 s-1の電界効果移動度を実現し(平均移動度は1.2 cm2 V-1 s-1)、アモルファスシリコンと同等の性能が実現されました。また、イオン液体をゲートキャパシタとして用いる電気二重層トランジスタデバイス(EDL FET)では有機薄膜トランジスタとしては極めて高い電界効果移動度(平均移動度で8 cm2 V-1 s-1)と、低電圧の駆動を達成することに成功し、巨大π電子拡張系フェナセンの電子材料としての有望性を見いだしました。

見込まれる成果:巨大π電子拡張系フェナセン類が有機電界効果トランジスタの活性層として有望であることが明らかになりました。この分子は、空気中で極めて安定で、従来用いられてきたペンタセンなどのアセン型分子より、有機エレクトロニクス材料として有望です。また、ベンゼン環を拡張したπ電子系のトランジスタ特性が良好であることがわかったので、さらに大きなベンゼン拡張系分子を使ったトランジスタに期待がもたれます。一方、これまで、ベンゼン環を多数繋いだ分子を作製することは難しかったのですが、今回の方法によって簡単に拡張分子を作製できたことは、これまで研究がなされてこなかった「ベンゼンが多数繋がった拡張π電子系分子」のトランジスタ特性を研究することに道を切り開きました。今回の合成手法は今後、さらに大きな拡張π電子系フェナセン分子の構築をサポートし,フェナセンの化学と物性の研究に寄与すると考えられます。

捕捉
有機化合物を活性層に用いるトランジスタは、有機物質の特性に由来する「柔軟性・耐衝撃性」,「軽量性」,「大面積化の容易さ」,「デバイス作成エネルギーの低減」などの利点があるため,従来の無機物に立脚するトランジスタに代わる次世代デバイスとして期待されています。有機トランジスタを高速で動作させるためには、その指標となる「電界効果移動度」を高めることが必要です。フェナセン類を活性層に用いた有機トランジスタはアモルファスシリコン(電荷移動度1-10 cm2 V-1 s-1)と同程度かそれ以上の性能を実現することが可能です。さらに、フェナセンは極めて安定な分子であるため、有機物を用いたデバイスの宿命ともいえる「耐久性」の問題を克服できる可能性も秘めています.このような観点から、フェナセンは今後の有機エレクトロニクスに有望な材料であると期待できます。岡山大学とナード研究所の研究グループでは、連続フロー反応手法とMallory光環化反応を組み合わせ、フェナセン類の系統的かつ効率的合成手法を構築し有機電子材料としての有用性を評価しています。

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<お問い合わせ先>
岡山大学大学院自然科学研究科(理)
准教授 岡本 秀毅
(電話番号)086-251-7840
(FAX番号)086-251-7853

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