国立大学法人 岡山大学

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悪性胸膜中皮腫を対象とする遺伝子治療用医薬品 JST産学共同実用化開発事業(NexTEP)採択について

2014年07月01日

 本学ナノバイオ標的医療イノベーションセンター(ICONT、センター長 公文裕巳大学院医歯薬学総合研究科教授)の研究成果を基盤として、杏林製薬株式会社(東京都千代田区、代表取締役社長 宮下三朝)から、独立行政法人科学技術振興機構(JST)の「産学共同実用化開発事業(NexTEP)」註1)に応募していた「悪性胸膜中皮腫 註2)を対象とする遺伝子治療用医薬品プログラム」が、平成26年6月23日付で採択されました。
 かねてから本学では、岡山大学で発見された新規がん抑制遺伝子REIC(Reduced Expression in Immortalized Cells)を用いる難治性固形がんに対する遺伝子治療の研究開発を行ってきました。
 本学は、REICに関する技術とノウハウを用いて、杏林製薬株式会社、本学発のバイオベンチャー企業である桃太郎源株式会社と連携し、悪性胸膜中皮腫を対象とする遺伝子治療用医薬品の実用化を支援するとともに、難治固形がん全般に対する「がんワクチン機能を有する遺伝子医薬」としての応用開発に取り組みます。
 岡山大学の長年の取り組みである、「がんワクチン機能を有するREIC遺伝子医薬」の臨床応用に向けて、ICONTの研究開発を基盤として、杏林製薬株式会社が応募した「悪性胸膜中皮腫 註2)を対象とする遺伝子治療用医薬品プログラム」が、平成26年6月23日、JSTの「産学共同実用化開発事業(NexTEP)」註1)に採択されました。
 本学で発見されたREIC/Dkk-3 遺伝子は、前立腺がん・腎がん・悪性胸膜中皮腫など、多岐にわたる固形がんでその発現が抑制されているがん抑制遺伝子であり、新規がん治療遺伝子としての高い応用性が期待されています。本遺伝子をアデノウイルス註3)に搭載したREIC遺伝子発現アデノウイルス(Ad-REIC)は、『がん細胞選択的アポトーシス』のみならず『抗がん免疫の活性化』を同時に惹起し、局所がん原発病巣はもとより遠隔がん転移病巣に対しても顕著な抗腫瘍効果を示すことが実験的に証明されています。
 本学発のバイオベンチャー企業である桃太郎源株式会社は、Ad-REICの最初のGMP製剤(第一世代製剤)を開発、前立腺がんを対象として、米国の薬品承認機関であるアメリカ食品医薬品局(FDA)に新薬臨床試験開始届(IND)を申請して受理され、わが国においては、岡山大学病院において平成23年1月25日から最初の臨床研究(First-in-Man試験)が実施されています

 この臨床研究では、これまでに25人の前立腺がん患者に投与され、副作用は一過性の発熱のみで、高い安全性が確認されています。また、用量依存的な直接的抗腫瘍効果と遠隔転移病巣に対する効果が実証され、創薬POC(Proof of Concept)が確立されています。
 今回のプログラムで使用する「Ad-SGE-REIC製剤」は、前述の第一世代Ad-REIC製剤の効果をさらに増強させる目的で開発した第二世代製剤で、REIC遺伝子の発現を飛躍的に上昇させる新規SGE(Super Gene Expression)システムを搭載したものです。この第二世代製剤Ad-SGE-REICについても、JSTによる研究成果最適展開支援プログラム(A-STEP)註4)実用化挑戦タイプの支援を受けて開発が行われ、すでに米国FDAにおいてIND申請が受理され、米国の2施設で前立腺がんを対象として臨床試験の第一段階のフェーズ 1試験が開始されており、本年5月28日にカリフォルニア大学サンディエゴ校で1例目の患者さんへの投与が実施されています。
 さらに、わが国における遺伝子治療用医薬品の開発を規制する薬事法についても、昨年、遺伝子治療用医薬品を含む再生医療等製品についてその特性を踏まえたうえで迅速かつ効果的に実用化を図るための「条件・期限付き承認制度」註5)が創設されるなど、その環境が大きく改善されつつあります。
 がんに対する遺伝子治療のパイオニアとしてわが国の研究開発をリードしてきた本学は、この度の杏林製薬株式会社のNexTEPへの採択を機会に、桃太郎源株式会社と連携し、アンメットニーズの極めて高い悪性胸膜中皮腫を対象とする遺伝子治療用医薬品の実用化を支援するとともに、難治固形がん全般に対する「がんワクチン機能を有する遺伝子医薬」としての応用開発を着実に加速していく計画です。



<補 足>註1) 産学共同実用化開発事業(NexTEP):独立行政法人科学技術振興機構(JST)が、大学等の研究成果に基づくシーズを用いて、企業等が行う開発リスクを伴う規模の大きい開発を支援し、実用化を目指す制度。
註2)悪性胸膜中皮腫:全世界で患者数の増加が予測され、かつ有効な薬剤の存在しない難治性疾患で、アスベストの曝露を原因として発症するとされている。日本においても、中皮腫による死亡者数は、1995年には500人、2004年に953人、2012年には1400人となっており、2030~2035年のピークに向けて今後も患者数の増加が予想されている。
註3)アデノウイルス: アデノウイルスは「風邪症候群」を起こす主要病原ウイルスの一つと考えられ、正常細胞に対する感染力は非常に弱いが、特定の主要細胞に対して特異的に感染するため、薬剤の運び屋(ベクター)として用いられる。高い遺伝子発現効率を示すにもかかわらず遺伝子発現は一過性で、休止期の細胞にも遺伝子導入が可能である。
註4)研究成果最適展開支援プログラム(A-STEP) : JSTによって行われている、大学や公的研究機関等で生まれた国民経済上重要な研究成果を実用化につなげるための技術移転支援プログラムで、フィージビリティスタディステージ(ステージⅠ)、起業挑戦ステージ、産学共同促進ステージ(ステージⅡ)、実用化挑戦ステージ(ステージⅢ)から構成され、大学等や公的研究機関の研究成果の実用化に向けた幅広い研究開発フェーズで研究開発を支援する制度。
註5)条件・期限付き承認制度:人の細胞を用いる再生医療製品の開発に従来の承認制度を適用した場合、個人差を反映して品質が不均一となるため、有効性を確認するためのデータの収集・評価に長い時間を必要とする。そこで、遺伝子用医薬品を含む、これらの製品を早期に実用化するため、有効性については一定数の限られた症例から従来より短期間で有効性を推定し、安全性については、急性期の副作用等を短期で評価して「条件・期限を付けて承認」し、市販後に有効性、さらなる安全性を検証することを可能とした制度。
独立行政法人科学技術振興機構(JST):http://www.jst.go.jp/
杏林製薬株式会社:http://www.kyorin-pharm.co.jp/
桃太郎源株式会社:http://www.mt-gene.com/

報道発表資料はこちらをご覧ください



<お問い合わせ先>
岡山大学大学院医歯薬学総合研究科
ナノバイオ標的医療イノベーションセンター(ICONT)
  戦略企画室
(氏名)小林 榮
(電話番号)086-235-6573
(URL)http://www.okayama-u.net/medic/icont/

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