国立大学法人 岡山大学

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クラゲの蛍光タンパク質で、血中がん細胞を捕獲 遺伝子変異の高感度検出が可能に

2014年07月03日

 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科消化器外科学分野の藤原俊義教授、重安邦俊医師らの研究グループは、オワンクラゲの緑色蛍光タンパク質(GFP)の遺伝子を組み込んだウイルス「テロメスキャン」を用いて、血液からがん細胞の遺伝子変異を高感度に検出する技術を世界で初めて開発しました。本研究成果は2014年5月28日、イギリスの消化器研究の科学雑誌『Gut』電子版に公開されました。
 多くのがんの薬物療法に使われる分子標的薬は、がん細胞の遺伝子変異を調べることで、その効果を予測することができます。従来、遺伝子変異を調べる際には、手術や針を刺すなど、直接、体内の組織を採取する必要がありましたが、本技術では、生体を傷つけず、血液から遺伝子変異を検出することが可能となりました。
 今後、さらに臨床研究を進めることで、がん患者により負担の少ない方法で、最適な医療(Precision Medicine)ができると期待されます。
<業 績>
 大腸がんや肺がん、白血病、消化管間葉系腫瘍(GIST)などのヒト悪性腫瘍に対する薬物療法では、がん発生の原因となる遺伝子異常を狙った分子標的薬が使われることが多くなってきました。これらの薬剤は、がん細胞の遺伝子変異を調べることで、効果が期待できる患者さんを選別することができます。これを「コンパニオン診断」と言います。
 今回、岡山大学大学院医歯薬学総合研究科消化器外科学分野の藤原俊義教授、重安邦俊医師らの研究グループは、オワンクラゲの緑色蛍光タンパク質(GFP)の遺伝子を組み込んだウイルス「テロメスキャン」を用いて、血液中を流れる極微量のがん細胞(circulating tumor cell; CTC)を緑色に光らせ、がん細胞のみを捕獲・回収し、分子標的薬の効果を予測する遺伝子変異を高感度に検出する技術を世界に先駆けて開発しました。
 CTCの検出には、がん細胞の上皮系マーカーを目印にする方法が多く使われてきましたが、転移や浸潤を起こす、より悪性度の高いがん細胞は、上皮間葉転換(epithelial–mesenchymal transition; EMT)により、上皮系マーカーを失い、従来の技術では検出できませんでした。研究グループは、「テロメスキャン」はEMTを起こしたヒトがん細胞も捕獲することができ、遺伝子解析も可能であることを明らかにしました。「テロメスキャン」は、間葉性CTCを検知する方法として優れており、CTCが出ないとされている肺がんなどでも、検出できる可能性があり、その診断技術の可能性が大きく期待されます。
 また、コンパニオン診断は、手術でがんを切除したり、針でがんを刺すなど、解析するためのがん組織を採取する必要があり、がんが進行して体力が落ちた患者さんでは手術が難しく、がんの位置によっては採取ができない場合もありました。「テロメスキャン」は、血液から遺伝子変異を検出することが可能で、これらの問題も解決できます。

テロメスキャンを用いた血中循環がん細胞(CTC)からの非侵襲的コンパニオン診断


<見込まれる成果>
 がんは1981年以来、日本人の死亡原因の第1位を占めており、国民の健康と安全・安心な社会を確保するためには、それぞれの患者さんに合った個別化医療(Personalized Medicine)を提供する必要があります。中でも近年、効く患者さんに効く薬剤を投与する最適化医療(Precision medicine)が注目されています。
 今回の研究成果から、「テロメスキャン」によって末梢血から非侵襲的に遺伝子変異を検出することができ、転移を形成するより悪性度の高いEMTを生じたがん細胞の解析も可能であることが示されました。
 今後、さらに臨床研究が進むと、がんに苦しむ患者さんにより優しい方法で最適化医療を実現し、国民の健康増進や医療経済の節減にも貢献することが大きく期待されます。

<補 足>
テロメスキャンとは:
 「テロメスキャン」は、風邪ウイルスの一種であるアデノウイルスのE1領域に、多くのがん細胞で活性が上昇しているテロメラーゼという酵素のプロモーターを遺伝子改変によって組込み、同時にE3領域にオワンクラゲの緑色蛍光タンパク質(GFP)の遺伝子を搭載した検査用ウイルスです。テロメスキャンは、がん細胞中で特異的に増殖して緑色蛍光を発光します。
 岡山大学と岡山大学発バイオベンチャーのオンコリスバイオファーマ株式会社(本社:東京都港区、代表取締役社長:浦田泰生)が共同で臨床開発を進めています。

発表論文はこちらからご確認いただけます

発表論文:Shigeyasu K, Tazawa H, Hashimoto Y, Mori Y, Nishizaki M, Kishimoto H, Nagasaka T, Kuroda S, Urata Y, Goel A, Kagawa S, Fujiwara T. Fluorescence virus-guided capturing system of human colorectal circulating tumour cells for non-invasive companion diagnostics. Gut. 2014 May 28. pii: gutjnl-2014-306957. (doi: 10.1136/gutjnl-2014-306957.)
報道発表資料はこちらをご覧ください


<お問い合わせ>
(所属)岡山大学大学院医歯薬学総合研究科
消化器外科学分野 教授
(氏名)藤原 俊義
(電話番号)086-235-7257
(FAX番号)086-221-8775
(URL)http://www.ges-okayama-u.com/

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