プレスリリース

ホーム > プレスリリース > 沈み込み帯スラブがマントル遷移層に水を供給することを解明

沈み込み帯スラブがマントル遷移層に水を供給することを解明

巨大地震や火山噴火の発生原因であるスラブの温度を“大迫セル”を用いて精密決定

 岡山大学地球物質科学研究センターの米田明准教授、国立科学博物館大迫正弘名誉研究員(元理工学研究部理化学グループ長)、中国地質大学武漢校王超(ワン・カオ)講師らの共同研究グループは、沈み込み帯スラブの岩石であるエクロジャイトの熱伝導率を“大迫セル”を用いて決定。スラブの中心部付近の温度が従来のモデルよりも50℃ほど低くなることを明らかにしました。
 本研究成果は8月20日、米国地球科学連合から発行されているJournal of Geophysical Research誌(オンライン版)に公開されました。
 プレートの沈み込みは地表付近の物質が地球深部に再循環するプロセスです。プレート境界面の急速な滑り(巨大地震)や、脱水作用でマグマを発生する(火山噴火)など、多様な地質現象を引き起こします。これらの現象に対して”水”が決定的な役割を果たしています。”水”に関連する現象がどこでどのように起こるかは、スラブ温度の深さ分布に依存しています。今回、スラブ物質の高温高圧熱伝導率を測定し、スラブでの脱水反応が起こる深さが従来の説よりも50-100km深くなり、スラブがマントル遷移層まで水を供給することが分かりました。
研究成果のポイント
  • エクロジャイトの構成鉱物である輝石(オンファサイト、ディオプサイド、ジェーダイト)の熱伝導率を測定した。
  • 今回のデータと過去のガーネットのデータを総合し、エクロジャイトのマントル条件下での熱伝導率を決定した。
  • 今回のエクロジャイトの熱伝導率を用いて沈み込み帯の温度変化を見積もった。その結果、従来の見積りよりも約50℃低温であることが分かった。
  • スラブ中部付近での脱水反応は従来の説よりも50-100km深いところで起こるので、スラブ内の水が遷移層(深さ410-670kmの地震波速度急増域)まで供給されることが確認できた。

<業 績>
 岡山大学地球物質科学研究センターの米田明准教授、国立科学博物館の大迫正弘名誉研究員、中国地質大学武漢校の王超(ワン・カオ)講師らの共同研究グループは、岡山大学地球物質科学研究センターの高圧装置を用いて、オンファサイトとディオプサイドの緻密かつ透光性の高い純良試料を作成し、高温高圧下の熱伝導率を測定。既に測定されているガーネットの熱伝導率と合わせてエクロジャイトの熱伝導率を決定しました。
 今回得られたエクロジャイトの低い熱伝導率は、エクロジャイトがスラブ中心部に対し断熱材として機能することを示しています。その効果を有限要素法シミュレーションで実際に評価したところ、スラブの中心付近の温度が従来の推定よりも50℃低いという結論が得られました。わずかな差のようですが、スラブでの脱水反応が起こる深さが50-100km深くなり、スラブがマントル遷移層(深さ400-700kmの領域)に水を供給することが分かりました。
 最近、愛媛大学や東北大学のグル-プが新しい含水相(phase H)を発見し、沈み込み帯スラブがマントル・コア境界(深さ2900km)の圧力まで安定であることを確認しました。本研究成果と合わせて、沈み込み帯スラブがマントル遷移層を越えマントル・コア境界まで水を運搬する可能性が高くなりました。

<背 景>
 プレート境界の沈み込みは地表付近の物質が地球深部に再循環するプロセスです。中央海嶺で生成されたプレート(スラブ)は海溝部でマントルへ沈み込みます。スラブの沈み込みは、巨大地震を引き起こすだけでなく、内部の含水鉱物の脱水作用に伴いマグマを供給すると考えられています(図1)。これらの現象がどこでどのように起こるかは、スラブの温度に依存しています。
 これまで、大迫名誉研究員が米田准教授と共同で開発した熱伝導率測定法を用いて、オリビンやガーネットなどのマントル鉱物を測定してきました。本方法は、高温高圧下の比熱測定が可能な唯一の方法です。今回、本研究グループはスラブの岩石であるエクロジャイトの熱伝導率を実験的に決定しました。

図1 沈み込み帯の概略。エクロジャイトはスラブ上面に存在する(緑色の部分)。エクロジャイトの最新の熱伝導率によると、サーペンティン(青色の部分)の脱水反応の深度が従来よりも深くなり(黒い点線から実線に)、フェーズA(ピンク色の部分)という別の含水鉱物の安定領域に達することが分かった。スラブの水はフェーズAとしてマントル遷移層まで運搬される。


<見込まれる成果>
 マントル鉱物の熱伝導率は地球内部のエネルギーの流れを拘束するために不可欠なパラメーターです。今後、本研究に用いた方法の圧力範囲の拡大し、ワズレアイト、リングウタイト、ブリジマンナイトなどの重要なマントル鉱物の熱伝導率を測定することで、熱機関としての地球の熱史へのさらなる理解が期待されます。

図2 地球内部の大局的構造とワズレアイト、リングウタイト、ブリジマンナイトの存在領域も示している。マントル対流は地球核(core)の冷却過程である。地球核を覆うワズレアイト、リングウタイト、ブリジマンナイトの熱伝導率は地球熱史研究において不可欠な基礎的データである。

<用語解説>エクロジャイト:沈み込むスラブ上面に存在する岩石で、その熱伝導率はスラブ内部の温度上昇をコントロールする。主要な構成鉱物は輝石(オンファサイト、ディオプサイド、ジャーダイト)とザクロ石(ガーネット)である。大迫セル:高温高圧下の熱伝導率を最も正確に測定できる方法。試料構成の特徴は 試料が“三枚おろし”になっていることである。熱拡散率と熱伝導率が同時測定できることも大きな特徴であり、高温高圧下の比熱が測定できる唯一の方法である。
大迫セルについては下記の邦文論文を参照してください。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jshpreview/24/2/24_108/_pdf

実験セルの構成図:大迫セルの特徴は試料(Sample)の“三枚おろし”構成である(中心部のピンク色の部分)。三等分した薄板試料の合わせ面の一つにパルス加熱用の薄い発熱体(インパルスヒーター, Impulse heater))を置いている。もう一方の試料合わせ面に測温用の熱電対(Thermocouple)を置いている。右の写真は実物のセルの写真である。


今回の実験に使用したオンファサイトとディオプサイドの緻密燒結体。透光性のある純良試料である。(これは王超さんが御苦労されたものであり、入れておきたいものです)


 本研究は学術振興会の基盤研究(S)“川井型装置による核マントル境界の温度圧力発生とマントル最深部実験地球科学の展開”(代表者:米田 明)による支援を受けて実施されました。

<論文情報>
発表論文はこちらからご覧いただけます
研究論文名:Measurement of thermal conductivity of omphacite, jadeite, and diopside up to 14 GPa and 1000 K: Implication for the role of eclogite in subduction slab 
(輝石類の熱伝導率測定と沈み込み帯におけるエクロジャイトについての考察)

著   者:Chao Wang、Zhenmin Jin; 中国地質大学武漢校
Akira Yoneda (米田 明), Eiji Ito(伊藤英司),Takashi Yoshino(芳野極); 岡山大学地球物質科学研究センター
Masahiro Osako(大迫正弘); 国立科学博物館


報道発表資料はこちらをご覧ください


<お問い合わせ>
 岡山大学地球物質科学研究センター 准教授
米田 明(よねだ あきら)
(電話番号)0858-43-3762
(FAX番号)0858-43-2184
(ホームページ)http://www.misasa.okayama-u.ac.jp/~hacto/top_j.html