国立大学法人 岡山大学

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相乗効果で毒性が3倍程度強まる 半導体工場の廃液

2014年10月08日

 岡山大学資源植物科学研究所(IPSR)の森泉准教授らの国際共同研究グループが、半導体工場で排出されるテトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)という化学物質がヨウ化カリウムと共存すると、オオミジンコに対する毒性が3倍程度強まることを明らかにしました。本研究成果は、化学系総合学術雑誌である『Chemosphere』の2015年2月号に掲載されます。
 TMAHは、半導体生産過程でエッチング液として大量に利用され、多くは河川等に放出されます。本研究グループは、TMAHが水生生態系に及ぼす影響を評価。細菌や藻類に対しては毒性を示しませんでしたが、オオミジンコやメダカに対しては毒性を示す結果でした。
 また、半導体生産工場では、複数の科学物質を排水処理後に同時に放流することがあります。本研究では、相乗効果によって、単体の化学物質よりも毒性が強くなることが確認されました。今後、研究を進めることにより、より良い半導体廃液処理技術の開発や化学品管理法、環境保全対策に役立つと期待されます。
<業 績>
 岡山大学資源植物科学研究所(IPSR)の森泉准教授、北九州市立大学国際環境工学部吉塚和治教授、河野智謙准教授ならびにマレーシア国民大学サルマン・イナヤット-フセイン教授らの国際共同研究グループは、現在、半導体生産の過程で大量に使用される溶剤である「テトラメチルアンモニウムヒドロキサイド(TMAH)」が、水生生態系に及ぼす影響を調べました。この研究では、異なる4つの生態的地位にある生物、つまり細菌、緑藻、ミジンコ、魚に対する毒性をそれぞれ調べることで、水生生態系への影響を予測しました。
 今回、TMAHは細菌(ビブリオ属菌)と緑藻(ムレミカズキモ)に対しては毒性がありませんでしたが、魚(メダカ)とミジンコ(オオミジンコ)に対しては弱い毒性がありました。TMAHの毒性は、世界基準である「化学品の分類および表示に関する世界調和システム」(Globally Harmonized System of Classification and Labelling of Chemicals:GHS)に照らし合わせると、弱い生態毒性に分類されます。
 2008年に台湾の半導体工場で事故があり、大量のTMAHが皮膚にかかった作業員が亡くなりました。その事故報告によると、死亡原因はTMAHによる神経麻痺とされています。水生生態系でも大量のTMAH暴露により神経系を持つ生物が致死的な影響を受ける可能性が予想されます。
 また、半導体生産工場では、「ヨウ化カリウム(KI)」も頻繁に使用されます。そこで、オオミジンコを用いてヨウ化カリウムとTMAHが共存する場合の毒性を詳細に調べました。その結果、ヨウ化カリウムとTMAHが共存すると単体の化学物質よりも毒性が強くなる効果(相乗効果)があることが分かりました(図1)。相乗効果が生じるメカニズムはまだ不明です。
 複数の化学物質を止むを得ず同時に自然界に放流することがありますが、毒性の相乗効果をよく念頭において半導体工場からの排水の安全管理および周辺水域の環境モニタリングを実施する必要があるでしょう。

図1. テトラメチルアンモニウムヒドロキサイド(TMAH)とヨウ化カリウム(KI)が共存する場合は、毒性が強まる結果であった


<見込まれる成果>
 半導体廃液に限らず、工場から複数の化学物質を廃水処理後に同時に放流することが多々あります。このような場合、それぞれの化学物質はお互いの毒性を弱め合ったり今回のケースのように強め合ったりすることがあります。
 この研究では、半導体生産の過程で排出される化合物(特にTMAH)に着目し、水生生物への毒性を調べました。この研究の成果は生態系への悪影響をより軽減する半導体廃液処理技術の開発につながります。また、工場周辺で想定した毒性を上回るインシデントが生じた場合の対処に必要な化学物質の毒性情報を提供しています。

 本研究は、公益財団法人岡山工学振興会および、公益財団法人クリタ水・環境科学振興財団の助成を受けて実施しました。


発表論文はこちらからご確認いただけます
発表論文:Izumi C. Mori, Carlos R. Arias-Barreiro, Apostolos Koutsaftis, Atsushi Ogo, Tomonori Kawano, Kazuharu Yoshizuka, Salmaan, H. Inayat-Hussain, Isao Aoyama. Toxicity of tetramethylammonium hydroxide to aquatic organisms and its synergistic action with potassium iodide. Chemosphere, 2015, 120, 299–304; (doi: 10.1016/j.chemosphere.2014.07.011)
報道発表資料はこちらをご覧ください


<お問い合わせ>
岡山大学資源植物科学研究所
環境応答機構研究グループ 准教授 森 泉
(電話番号)086-434-1215
(FAX番号)086-434-1249
(URL)http://www.rib.okayama-u.ac.jp/?p=5690

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