国立大学法人 岡山大学

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コムギの種子成熟制御遺伝子を特定 穂発芽の被害防止へ

2014年10月15日

 岡山大学資源植物科学研究所(IPSR)ゲノム制御グループの力石和英助教、前川雅彦教授は、種子の成熟をコントロールする遺伝子をコムギで特定。種子の品質低下をもたらす穂発芽を防止する種子休眠性との関係を明らかにしました。本研究成果は、2014年9月11日にアメリカのオンライン科学雑誌『PLoS One』に掲載されました。
 種子成熟制御遺伝子は、種子休眠性をコントロールするだけではなく、種子貯蔵タンパク質の蓄積にも関係します。今後、これらの遺伝子の機能を解析することで、穂発芽耐性や種子品質の改良につながると期待されます。
<業 績>
 収穫期の雨などの影響で、種子が植物体上で発芽することを「穂発芽」といいます。穂発芽した種子ではデンプンの分解が起き、著しく品質が低下。コムギやオオムギなどの種子を主たる収穫物とする作物は、深刻な被害を受けます。
 モデル植物のシロイヌナズナは、種子休眠性を制御する4種の種子成熟制御遺伝子(LEC1、LEC2、FUS3、VP1)が特定されており、この種子休眠性が穂発芽の制御に深く関わることが解っています。単子葉植物(コムギ、オオムギ、イネ等)においても、同様の機能が推定されますが単子葉植物のLEC2はこれまで特定されていません。特にコムギでは、VP1を除く3種の制御遺伝子は未だ特定されていませんでした。

 本研究では、LEC1、LEC2およびFUS3のコムギにおける相同遺伝子(TaL1LA、TaL2LAおよびTaFUS3)を特定し、その機能を解析しました。本研究で見いだされたTaL2LAは単子葉植物で初めて特定されたLEC2の相同遺伝子です。
 コムギの品種には、種子休眠性について幅広い品種変異があります。本研究グループは、さまざまな程度の種子休眠性を示す品種について、種子成熟制御遺伝子の発現量を調査。TaL1LA、TaL2LA、TaFUS3の発現量と休眠性の強弱には相関関係があることを確認し、コムギ種子成熟制御遺伝子が種子休眠性のコントロールに関わっていることを明らかにしました。





<見込まれる成果>
 穂発芽は、日本のコムギ栽培だけでなく、世界的にも重大な被害を与えています。穂発芽を防止するためには耐性品種の育成が必要となりますが、コムギの種子休眠性がどのような制御を受けているのかについては未だ不明な点が多く、複雑な制御ネットワークの影響を受けていると考えられます。
 種子成熟制御遺伝子は、休眠性を制御する遺伝子の一部ではありますが、これら遺伝子は他の遺伝子の働きを制御する重要な遺伝子で、複数の遺伝子に影響を与えます。従って、これら遺伝子をターゲットとした品種改良をすることにより、一度に多くの遺伝子の働きを変更することが可能となり、効率的な品種育成ができます。
 また、種子成熟制御遺伝子は種子休眠性だけでなく、種子貯蔵タンパク質や脂質の蓄積、乾燥耐性にも関わることが明らかとなっています。コムギ、オオムギおよびイネなどのイネ科植物では種子が主な収穫物となります。このような作物においては、種子成熟制御遺伝子の機能を明らかにすることにより、種子品質の向上にもつながるものと期待できます。

<補 足>
 種子休眠性とは、種子の成熟が完了したにもかかわらず、水、温度などの環境条件が発芽に適していても発芽しない特性のことです。種子の発芽は、植物ホルモンであるアブシジン酸(ABA)とジベレリン(GA)が拮抗的に作用します。ABAは発芽を抑制し、GAは発芽を促進します。種子の発達過程では、ABAが蓄積することにより休眠性が誘導されることが明らかとなっています。

発表論文はこちらからご確認いただけます

発表論文:Rikiishi K, Maekawa M. Seed maturation regulators are related to the control of seed dormancy in wheat (Triticum aestivum L.). PLoS ONE, 2014, 9(9): e107618; (doi:10.1371/journal.pone.0107618)

報道発表資料はこちらをご覧ください


<お問い合わせ>
岡山大学資源植物科学研究所 ゲノム制御グループ 助教
力石 和英(りきいし かずひで)
(電話番号)086-424-1661
(FAX番号)086-434-1249
(URL)http://www.rib.okayama-u.ac.jp/research/pgm-hp.html

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