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コメのヒ素蓄積を抑制する輸送体遺伝子を発見

 本学資源植物科学研究所の馬建鋒教授らの研究グループは、イネの輸送体タンパク質OsABCC1が、コメ穀粒へのヒ素の蓄積を抑制することを世界で初めて突き止めました。
 本研究成果は2014年10月20日(米国東部時間15:00)に米科学アカデミー紀要電子版で公開されます。
 ヒ素は微量でも摂取し続けると慢性毒性を生じる毒性元素です。私たちは主食であるコメからヒ素を摂取する割合が高く、その低減が求められています。本研究で明らかになった、イネ自身が持つヒ素の蓄積を抑制する仕組みを応用することで、その働きを高め、ヒ素蓄積の少ないより安全なイネ品種の開発につながると期待されます。
<業 績>
 岡山大学資源植物科学研究所は韓国浦項工科大学らの研究グループと共同で、イネのOsABCC1遺伝子によって作られるOsABCC1輸送体タンパク質がコメ穀粒へのヒ素の蓄積を抑制する働きがあることを明らかにしました。
 OsABCC1輸送体タンパク質はイネの細胞の液胞膜上に局在し、ヒ素を液胞に隔離する働きがあります。さらに、ヒ素は液胞内で、ファイトケラチン(植物がアミノ酸から合成するキレート化合物)と安定的に結合することで無毒化されます。
 OsABCC1輸送体タンパク質は維管束の篩管に隣接する篩部伴細胞を中心にイネの全身で構成的に発現しますが特に発達した維管束が集中する節において多く見られます。イネは篩部伴細胞の液胞へとヒ素を隔離することで、篩管を通って穀粒へと運ばれるヒ素の転流を効果的に抑制します。この働きにより、玄米中のヒ素蓄積は、OsABCC1遺伝子が壊れた変異体イネに比べて正常なイネでは13〜18分の1に減少しました。



<見込まれる成果>
 本研究により、イネ自身が穀粒へのヒ素の蓄積を効果的に抑制する仕組みを備えていることが明らかになりました。この仕組みを応用し、より働きを高めることで、ヒ素蓄積の少ないより安全なイネ品種の開発につながると期待されます。

<背 景>
 ヒ素は極めて毒性の強い元素で、急性毒性だけでなく、微量でも継続的に摂取することによって慢性毒性を生じます。イネは他の穀物に比べヒ素を蓄積しやすい性質があり、また日本を始めアジア各国の主食でもあることから、コメからのヒ素摂取が総摂取量の多くの割合を占めています。また、バングラデシュやインド西ベンガル地方など世界の一部の地域では地下水中に比較的高濃度のヒ素が含まれており、その地下水を灌漑に用いたことで、コメをはじめとする農作物のヒ素汚染が非常に大きな問題となっています。さらに今年7月、国連の食品規格機関であるコーデックス委員会は精米中のヒ素の最大許容量(0.2mg/kg)を採択しました。これに基づき、日本国内でもコメに含まれるヒ素の一層の低減策が求められています。これまで、コメのヒ素蓄積を低減する方法は、早期落水などの栽培管理や水田の客土などの対症療法しかありませんでしたが、本研究によって見出されたイネの遺伝子OsABCC1を品種改良に利用すれば根本的な解決につながる可能性も見えてきました。

 本研究は文部科学省科学研究費補助金 新学術領域研究「劣悪化する土壌環境に適応するための植物の知恵」および基盤研究A「イネの有害元素集積を制御する遺伝子の同定と応用」の助成を受け実施しました。

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<お問い合わせ>
岡山大学資源植物科学研究所
教授  馬 建鋒
(電話番号) 086-434-1209
(FAX番号) (同上)


<用語解説>
1)篩部
 維管束植物において、植物全体の需要のある部分に輸送する生体組織である。あまり特化していない有核柔細胞や、師管細胞、伴細胞(他にもタンパク細胞,繊維,厚膜細胞)から構成される。

2)ABCトランスポーター
 ATP結合カセット輸送体 (ATP-binding cassette transporters) の略称。ATPのエネルギーを用いて物質の輸送を行う膜輸送体の一群である。構造的特徴を共有する非常に大きなタンパク質スーパーファミリーをなし、現生のすべての生物に存在する。種類によって、A,B,C..とグループ分けされている。