国立大学法人 岡山大学

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精子形成不全に関わるストレスタンパク質の機能を発見

2014年10月28日

 本学医歯薬学総合研究科(医学系)免疫学分野の鵜殿平一郎教授、一柳朋子助教らの研究グループは、HSP90α(ストレスタンパク質)が哺乳類の生殖細胞におけるレトロトランスポゾンの再活性化抑制機構に関与し、ゲノムの恒常性維持にも重要であることを遺伝的に初めて証明しました。本研究成果は2014年9月27日付けで「Nucleic Acid Research電子版」で公開されました。
 ストレスタンパク質のHSP90αは様々なタンパク質の適切な構造や局在を助けることにより、細胞内の恒常性の維持などに働くタンパク質です。
 本研究成果はストレスタンパク質の機能の新たな一面を明らかにしただけでなく、不妊症の原因究明として今後応用できる可能性があります。
 岡山大学医歯薬学総合研究科(医学系)免疫学分野の鵜殿平一郎教授、一柳朋子助教、九州大学、大阪大学及び京都大学の共同研究グループ8名は、HSP90α欠損マウス胎生期の精巣を詳細に解析し、生殖細胞の発生過程で産生されるべきpiRNA(小分子RNAの一種)の生成異常及びレトロトランスポゾン(利己的に転移する因子で哺乳類ゲノムの約半分を占めている)の抑制異常があることを明らかにしました。
 哺乳類の生殖細胞の形成過程では、胎生期に一度レトロトランスポゾンが活性化することが知られていますが、その後、DNAメチル化酵素やヒストン修飾酵素などの核内タンパク質によってエピジェネティックに再抑制され、この抑制機構が破綻すると精子形成不全になります。一方、細胞質ではpiRNAと呼ばれる小さなRNAが産生されています。これらは主にレトロトランスポゾン配列に由来しており、細胞質でのレトロトランスポゾンmRNAの切断を誘導すると共に、核内でレトロトランスポゾン配列のDNAメチル化を誘導する働きもあります。piRNA生合成系の破綻も精子形成不全を引き起こします。
 これまでに、鵜殿教授らはHSP90α欠損マウスを作製し、この変異体でも精子形成不全が見られ、不妊となることを明らかにしてきました。本研究では、変異体の生殖細胞ではレトロトランスポゾンの抑制が見られないことやpiRNAの発現量が顕著に減少していること等を報告し、piRNAを介したレトロトランスポゾン抑制系にはHSP90αの働きが重要であることを哺乳類で遺伝学的に初めて示しました。特にHSP90α欠損マウスではpiRNA結合タンパク質が細胞質から核内へ移行できず、HSP90αが細胞質の情報と核内の活動を繋ぐ重要なタンパク質である可能性が示唆されました。HSP90αは昆虫や植物でもpiRNAやmiRNAなどの小分子RNAの生成に関わっているので、この機構は進化的にかなり保存されていると推察されます。

<補 足>
piRNA:
 PIWI interacting RNAの略でPIWIタンパク質という小分子RNA生成に関与する分子と結合する小分子RNAで、配列はそれぞれ異なりますが、存在自体は動物界で一般的に保存されています。piRNAは生殖細胞特異的なものだと考えられていましたが、最近は脳や癌細胞、ES細胞などでも発現が報告され始めています。胎生期生殖細胞のpiRNAはレトロトランスポゾンに相補的な配列を持つものが多いことが知られています。

レトロトランスポゾンの活性化と再抑制:
 生殖細胞の発生過程でDNAメチル化等のエピジェネティックな修飾が一時的にほとんど消失し、再度修飾され直すことが知られています(エピジェネティック・リプログラミング)。この時期に通常はエピジェネティックな修飾により転写が抑制されているレトロトランスポゾンの活性化が見られます。正常であれば、その後、再抑制されますが、piRNAの発現がないとこれらの再修飾が効率よく入らず、レトロトランスポゾンを再抑制することができないことが知られています。

発表論文はこちらからご確認いただけます

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<お問い合わせ先>
岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 免疫学分野
教授 鵜殿平一郎  助教 一柳 朋子
(電話番号)086-235-7192
(FAX番号)086-235-7193

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