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小児の心筋再生医療 臨床研究で安全性と有効性を確認-岡山大が進める世界初の治療法-

 岡山大学病院新医療研究開発センター再生医療部の王英正教授らの研究グループは、2011~2012年にかけて、左心低形成症候群に対する心臓内幹細胞自家移植療法の第1相臨床研究を実施(TICAP試験:対象14人)。冠動脈注入法による幹細胞移植法の安全性と心不全治療における有効性を確認しました。本研究成果は、2014年11月17日、米国科学雑誌「Circulation Research」に掲載されました。
 左心低形成症候群は、左心室が異常に小さい単心室症の一つで、予後不良の先天性心疾患です。重度の先天性心疾患では、「心臓移植」しか治療法がなくなる場合も少なくありませんが、日本では小児の脳死ドナー(臓器提供者)の数が少ないのが現状です。本研究グループは、先天性心疾患を持つ小児自身の心臓幹細胞を採取して培養した後、心筋に移植して機能を強化する「再生医療」を世界で初めて開発し、臨床研究を進めています。
 本治療法によって、小児の心機能が向上すれば、心不全を回避できる可能性が増し、患者に新たな選択肢をもたらすと大きく期待されています。また、標準治療として保険適用されることを目指し、2015年から企業主導の臨床治験を開始予定です。
<業 績>
 岡山大学病院新医療研究開発センター再生医療部の王英正教授、同小児循環器科の大月審一教授、岡山大学大学院医歯薬学総合研究科心臓血管外科の佐野俊二教授らの共同研究グループは、2011年1月~2012年1月まで合計14症例の左心低形成症候群に対して、標準外科手術+細胞治療群(治療群:7人)と標準外科手術単独群(非治療群:7人)に分けて第1相臨床研究を行いました。
 本治療法は、心臓組織約100ミリグラムを採取し、幹細胞を抽出して10日間培養。体重1キロ当たり30万個を冠動脈へカテーテルで注入します。第1相臨床研究では、組織採取1カ月後に幹細胞を移植する治療群と、非治療群に分け、比較を行いました。
・安全性・・・細胞移植時における急性虚血や致死的不整脈の惹起作用は認められず、また、移植した細胞によるアレルギー反応や造腫瘍作用も全く認められませんでした。・有効性・・・18ヶ月間にわたる長期追跡調査により、細胞移植を行った7症例において、外科治療単独群に比べ、心臓の機能が8%以上有意に改善していることがわかりました。(図1) 本臨床研究によって、細胞治療を受けたグループは、標準外科治療単独群と比較し、心不全の臨床症状が有意に改善し、かつ、心臓手術後も発育不良児が多い本疾患において、良好な身体発育の促進効果があることが明らかとなりました。

<見込まれる成果>
 本研究グループは、2013年6月より実施中の合計34症例の小児心臓病患者を対象とした無作為割付第2相臨床研究(PERSEUS試験:33症例登録実施済み)においても、その安全性と有効性を再確認しています。今後、第1/2相臨床研究成果を基盤として、本治療法の標準医療化に向けて2015年以降に企業主導臨床治験を実施する予定です。
 企業主導臨床治験は、本学と国内5カ所の子ども病院で患者40人を対象に実施。心臓組織の採取を血流改善の外科手術時に加え、心機能の状況を把握するカテーテル検査時にも広げ、幹細胞移植を複数回受けられる体制を目指しています。
 本治療法が保険適用され標準医療化が進めば、先天性心疾患患者の心機能を向上させ、心不全を繰り返すことなく過ごすことができると期待されます。さらに、年齢とともに体を大きく成長させ、通常に近い日常生活が送れることが大いに期待されています。

<論文情報>
Intracoronary Autologous Cardiac Progenitor Cell Transfer in Patients with Hypoplastic Left Heart Syndrome (TICAP): A Prospective Phase 1 Controlled Trial.
Ishigami S, Ohtsuki S, Tarui S, Ousaka D, Eitoku T, Kondo M, Okuyama M, Kobayashi J, Baba K, Arai S, Kawabata T, Yoshizumi K, Tateishi A, Kuroko Y, Iwasaki T, Sato S, Kasahara S, Sano S, Oh H.
DOI:10.1161/CIRCRESAHA.116.304671
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25403163

<補 足>
  1. 資金源;厚生労働科学研究補助金:成育疾患克服等次世代育成基盤研究事業:2010~2012年度、再生医療実用化研究事業:2013~2015年度)
  2. 第1相臨床研究リンク先:TICAP臨床試験
    http://clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT01273857?term=ticap&rank=2
  3. 第2相臨床研究リンク先:PERSEUS臨床試験
    http://clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT01829750?term=perseus&rank=7
  4. 成立した特許番号:特許第4783909号(日本)、EP1857544 B1(イギリス、ドイツ)、US8414924 B2(アメリカ)、CA2600653(カナダ)
<参考図>

図1. 細胞治療法による心機能の長期追跡調査結果。
細胞移植併用群(右)は標準外科手術単独群(左)に比べ、移植後3~18ヶ月目(横軸)まで長期的に良好な心室駆出率(縦軸)を示しました。

報道発表資料はこちらをご覧ください


<お問い合わせ先>
岡山大学病院新医療研究開発センター
再生医療部 教授 王 英正
(電話番号)086-235-6506
(FAX番号)086-235-6505