国立大学法人 岡山大学

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大腸がん細胞の増殖を抑制する新たな分子機構を解明

2014年12月18日

 岡山大学大学院環境生命科学研究科(農学系)の中村宜督教授、安部奈緒美日本学術振興会特別研究員(DC1、博士後期課程2年)らの研究グループは、食品成分のベンジルイソチオシアネート(BITC)が転写因子NF-kappaBを介して大腸がん細胞の増殖を抑制する分子機構を世界で初めて解明しました。
 本研究成果は、2014年11月20日、英国のオンライン科学雑誌『Cell death & disease』(Nature Publishing Group)に掲載されました。
 大腸がんは先進国において罹患(りかん)率が高く、日本女性のがん死亡率の一位を占めています。本研究成果は、大腸がんに選択的な増殖制御の新しい戦略を提案するもので、大腸がん治療や予防に有効な薬剤の開発だけでなく、食品成分のもつ機能性/安全性への理解に貢献することが期待されます
<業 績>
 岡山大学大学院環境生命科学研究科(農学系)食品生物化学研究ユニットの中村宜督教授、安部奈緒美日本学術振興会特別研究員(DC1、博士後期課程2年)、同研究科(農学系)生物情報化学ユニットの村田芳行教授、宗正晋太郎助教、鹿児島大学農学部の侯德興教授らの研究グループは、がん抑制遺伝子p53が機能不全となった大腸がん細胞において、BITCがNF-kappaBを活性化させ、大腸がん発生の主な原因であるbeta-catenin/cyclin D1経路の活性化を阻害することにより、がん細胞の増殖を抑えることを明らかにしました(図1)。

 大腸がん発生の原因の多くは、遺伝子の変異によるbeta-cateninの異常蓄積にあると考えられています。蓄積したbeta-cateninは、cyclin D1などの細胞増殖に関わる遺伝子の発現を過剰に誘導することで腫瘍の形成を促進することが報告されています。
 これまでは、主にこのbeta-cateninの発現を減らす薬剤が大腸がん細胞の増殖阻害に有効であると考えられてきました。ごく最近では、転写因子NF-kappaBがbeta-cateninと相互作用し、互いの機能を調節し合うことが報告されつつあります。また、がん抑制遺伝子p53はDNA修復等の機能を持ちますが、全悪性腫瘍の半数以上で変異や欠失による機能不全が認められています。

 NF-kappaBは、BITCによる大腸がん細胞の増殖抑制作用において中心的な役割を担っています。本研究グループは、BITCが1)p53変異型大腸がん細胞においてのみNF-kappaBを核内に移行させること、2)beta-cateninのcyclin D1遺伝子への結合パターンを変えることによってcyclin D1の転写を抑制すること、3)以上の経路を介して最終的に大腸がん細胞の増殖を阻害することを明らかにしました。

 本作用はスルフォラファンのような脂肪族イソチオシアネートには認められておらず、また、正常細胞ではp53やbeta-cateninの機能が正常であるため、beta-catenin/cyclin D1経路の活性化による副作用の可能性が極めて少ないことも示唆しています。

<見込まれる成果>
 本研究成果は、食品成分BITCのもつ機能性の科学的な根拠を提供すると共に、大腸がん細胞の増殖抑制作用においてカギとなる新しい分子メカニズムを解明したことから、NF-kappaBの活性化によるbeta-cateninの制御を標的とした大腸がん治療の新しい薬剤の開発が期待されます。また、今後の研究の進展により、食品成分のもつ機能性・安全性への科学的理解に大きく貢献することが期待されます。

<補 足>
 今回の研究結果は、ヒト大腸がん細胞培養モデルを用いて明らかにした作用の一面でしかなく、ヒトでの作用を知るには更なる研究が必要です。精製した食品成分のヒトでの安全性は、まだ完全に証明されていないこともご承知ください。

 本研究は、独立行政法人日本学術振興会(JSPS)科研費・基盤研究(B)及び日本学術振興会特別研究員奨励費の助成を受け実施しました。

発表論文:Abe N, Hou D-X, Munemasa S, Murata Y, Nakamura Y. Nuclear factor-kappaB sensitizes to benzyl isothiocyanate-induced antiproliferation in p53-deficient colorectal cancer cells. Cell Death Dis., 5, e1534 (2014); doi:10.1038/cddis.2014.495

発表論文はこちらからご確認頂けます。

報道発表資料はこちらをご覧ください


<お問い合わせ>
岡山大学大学院環境生命科学研究科(農)
食品生物化学研究ユニット 教授 中村 宜督
(電話番号)086-251-8300
(FAX番号)086-251-8300
(URL) http://www.agr.okayama-u.ac.jp/shokuhin/

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