国立大学法人 岡山大学

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がん細胞のリンパ節転移を完全に消去する新たな遺伝子改変ウイルス製剤を用いた治療法の開発

2015年02月02日

 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科消化器外科学分野の藤原俊義教授、岸本浩行助教、菊地寛次医師らの研究グループは、がん細胞を選択的に殺傷する遺伝子改変ウイルス製剤「テロメライシン」を用いて、消化器がんのリンパ節転移を低侵襲的に完全に消去する新たな治療法を開発し、ヒト大腸がんを直腸に移植したマウスでその効果を実証しました。
 本研究成果は2015年1月20日、米国の科学雑誌『Molecular Therapy』(Nature Publishing Group)電子版で公開されました。
 胃がんや大腸がんなどの消化器がんは、早期であれば内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)によって根治が望めます。しかし、粘膜下層まで浸潤していると、リンパ節転移の可能性があるため、一般的に追加で外科切除が行われています。
 本技術でリンパ節転移を完全に消去することができれば、追加の外科切除を回避できると期待されます。早期の胃がん、大腸がんなどの患者の治療後の生活の質(Quality of life; QOL)を高く保つことができると期待されます。
<業 績>
 胃がんや大腸がんなどの消化器がんは、早期で粘膜内に留まっていれば、リンパ節転移の可能性がほとんどないため、内視鏡的粘膜下層剥離術(Endoscopic submucosal dissection; ESD)によって開腹することなく切除することができます。しかし、切除した組織でがんが粘膜下層まで浸潤していれば、10~20%の確率でリンパ節転移が認められるため、臓器とリンパ節の外科的切除が追加されます。手術以外に微小なリンパ節転移を診断する方法がないためですが、約80%の患者ではリンパ節転移はみられず、結果的には手術を行う必要がなかったことになります。
 今回、岡山大学大学院医歯薬学総合研究科消化器外科学分野の藤原俊義教授、岸本浩行助教、菊地寛次医師らの研究グループは、岡山大学で開発された国産の抗がんウイルス製剤である「テロメライシン」(Telomelysin、OBP-301)をがんの下の粘膜下層に注入することで、リンパ節の微小転移を消去できることをマウスに移植した大腸癌のモデルを用いて世界で初めて証明しました。投与されたテロメライシンはリンパ流に乗ってリンパ節に到達し、転移したがん細胞の中で増殖することでがん細胞を選択的に殺傷しました。

図:低侵襲的な消化器がんリンパ節転移の治療

 また、内視鏡でがんを切除する際、がんを持ち上げるために粘膜下層に薬液を打ち込む必要がありますが、テロメライシン液はこの目的にも使用することができます。つまり、がんを浮かすと同時にリンパ節転移も消去することができ、ESDとテロメライシンを併用することで追加の外科切除を回避できると期待されます。

<見込まれる成果>
 がんは1981年以来、日本人の死亡原因の第1位を占めており、特に毎年多くの患者が胃がんや大腸がんと診断されます。早期に発見され、がんが粘膜内に留まっていれば、これらの消化器がんのほとんどは内視鏡的切除で根治することが出来るようになりました。しかし、粘膜下層への浸潤がみられれば、リンパ節転移を診断・治療するために胃や大腸の臓器切除を伴う外科切除が勧められます。手術は安全に行われますが、体重減少や食生活の変化などの生活への影響は免れません。
 今回の研究成果から、「テロメライシン」を内視鏡切除の際に同時に使用することで、万が一、リンパ節転移があっても消去することができれば、外科切除を回避して胃や大腸の臓器を温存し、治療後の患者の生活の質(QOL)を高く保つことができると期待されます。今後、臨床応用を目指して研究が進んでいきます。

<補 足>
テロメライシンについて:
 「テロメライシン」は、風邪ウイルスの一種であるアデノウイルスのE1領域に、多くのがん細胞で活性が上昇しているテロメラーゼという酵素のプロモーターを遺伝子改変によって組込み、がん細胞中で特異的に増殖してがん細胞を破壊することができるようにしたウイルス製剤です。「テロメライシン」がヒトのがん細胞に感染すると一日で10万~100万倍に増え、がん細胞を破壊します。一方、「テロメライシン」は正常組織細胞にも同様に感染はしますが、テロメラーゼ活性がないためウイルスは増殖せず、正常組織での損傷は少ないと考えられます。岡山大学発バイオベンチャー「オンコリスバイオファーマ株式会社」(本社:東京都港区、代表取締役社長:浦田泰生)が米国で実施した、がん患者に対する「テロメライシン」の臨床試験において、重篤な副作用は認められておらず、投与部位での腫瘍縮小効果などの有効性が認められました。また現在、岡山大学では食道がんに対してテロメライシンと放射線治療を併用する臨床研究が進んでいます。

発表論文:Kikuchi S, Kishimoto H, Tazawa H, Hashimoto Y, Kuroda S, Nishizaki M, Nagasaka T, Shirakawa Y, Kagawa S, Urata Y, Hoffman RM, Fujiwara T: Biological Ablation of Sentinel Lymph Node Metastasis in Submucosally Invaded Early Gastrointestinal Cancer. Mol Ther. 2014 Dec 19. doi: 10.1038/mt.2014.244.

発表論文はこちらからご確認いただけます

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<お問い合わせ>
岡山大学大学院医歯薬学総合研究科
消化器外科学分野 教授 藤原 俊義
(電話番号)086-235-7257
(FAX番号)086-221-8775
(URL)http://www.ges-okayama-u.com/

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