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マラリア原虫の薬剤耐性タンパク質の働きを世界で初めて解明

 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科(薬)の森山芳則教授、表弘志准教授、自然生命科学研究支援センターの樹下(じゅげ)成信助教(JST さきがけ)らの研究グループが、マラリア原虫の薬物耐性原因タンパク質(PfCRT)の働きをタンパク質レベルで、世界で初めて突き止めました。本研究成果は2015年3月2日(米国東部時間15:00)に『米科学アカデミー紀要』電子版で公開されます。
 マラリアは3大感染症の一つで、近年は抗マラリア薬に耐性を持つマラリア原虫の出現が問題になっています。本研究成果は、PfCRTをターゲットとした新しい薬の創成を可能にするものと期待されます。
<業 績>
 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科(薬)の森山芳則教授らの研究グループは、PfCRTの遺伝子を全合成し、本学が開発した膜タンパク質の生産システムに導入。PfCRTを大腸菌に大量に作らせ、精製し、その機能を測定する事に世界で初めて成功しました。
 本システムを用いて働きを調べたところ、PfCRTがクロロキンやベラパミル等の薬物を輸送するとともに、アミノ酸やポリアミン等の栄養物質を輸送するトランスポーターである事がわかりました。アミノ酸はマラリア原虫が生きていくために必須な栄養素です。クロロキンはアミノ酸輸送を阻害する事で、マラリア原虫を栄養飢餓状態にしている可能性が示唆されました。




<背 景>
 マラリアはハマダラ蚊によって媒介される感染症で、現在でも全世界で年間2億人が感染し、60万人以上の死者を出す3大感染症の一つです。1957年にはクロロキン耐性型マラリア原虫が出現し、瞬く間に世界中に拡散しました。このため、マラリア対策は困難さを増しています。
 クロロキン等の抗マラリア薬に対する耐性の原因としてPfCRTタンパク質が知られています。本タンパク質の遺伝子に変異が入る事で、マラリア原虫はクロロキンに対して耐性になります。しかし、マラリア原虫の遺伝子はATリッチ(アデニンとチミンが多い)が多く特殊である事や、マラリア原虫膜タンパク質の生産が難しい事から、タンパク質レベルでの解析は不可能でした。したがって、これまでマラリア対策で重要なPfCRTの働きもよくわかっていませんでした。

<見込まれる成果>
 マラリア原虫のトランスポーターをタンパク質レベルで解析できたことは、マラリア研究のこれまでの課題を解決する大きな前進です。PfCRTが運ぶ物質を特定したことで、PfCRTの薬物スクリーニングが可能になり、今後、本タンパク質をターゲットとした新しい抗マラリア薬の開発が大きく期待されます。
 本研究成果は、拡大するマラリア薬物耐性型マラリアや地球温暖化を見据えたマラリア対策に重要なステップになります。

 本研究は文部科学省特別経費プログラム「難治性感染症を標的とした創薬研究教育推進事業」の助成を受け実施しました。

<原論文情報>(著者)Narinobu Juge, Sawako Moriyama, Takaaki Miyaji, Mamiyo Kawakami, Haruka Iwai, Tomoya Fukui, Nathan Nelson, Hiroshi Omote and Yoshinori Moriyama(題名)“Plasmodium falciparum chloroquine resistance transporter is a H+-coupled polyspecific nutrient and drug exporter”(誌名)Proceedings of the National Academy of Sciences (PNAS),2015;in press.
<補 足>
 マラリア原虫はヒトの赤血球内に侵入し、ヘモグロビン等を消化胞と言われる細胞内器官に取り込んで栄養としています。消化胞内に取り込まれたヘモグロビンは分解されて、アミノ酸になり、マラリア原虫の細胞質に運び出されて利用されます。一方、ヘモグロビンに含まれる有毒なヘムは無毒なものへ変換されます。クロロキンはヘムの無毒化を阻害する事で、消化胞内に有毒なヘムを蓄積させて、細胞毒性を発揮するとされています。

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<お問い合わせ>
岡山大学大学院医歯薬学総合研究科(薬)
准教授 表 弘志
(電話番号)086-251-7935