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ケトン食の謎を解明 新しいてんかん治療薬の開発が可能に

 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科(薬)の井上剛准教授、佐田渚大学院生らの研究グループは、既存の治療薬が効かないてんかん患者に効くケトン食療法[1]の仕組みを解明。乳酸脱水素酵素[2]を標的とし、スチリペントール[3]の化学構造を改変することで、ケトン食療法に基づくてんかん治療薬が開発可能であることを示しました。本研究成果は、2015年3月20日、アメリカの科学振興協会(AAAS)発行の『Science』に掲載されました。
 ケトン食療法は、1920年代に開発されたにも関わらず、未だに薬が効かない難治性てんかんの治療法として使われています。しかし、それに代わる治療薬はありません。本研究により、100年近く開発に成功していない画期的治療薬の誕生が期待されます。
<背 景>
 てんかんは、脳が発する電気活動の過剰興奮を特徴とし、全人口の約1%が罹患(りかん)しています。そして、その約3割の患者は、既存のてんかん治療薬でコントロールできません。今、新しいてんかん治療薬が必要とされています。興味深いことに、この治療薬が効かない難治性てんかん患者の一部に、ケトン食療法が効果的であることが知られています。つまり、ケトン食療法には、既存の治療薬にはない効用があると想定されます。それが分かれば、新しい治療薬開発に繋がります。

<研究成果>
 岡山大学、川崎医科大学らの研究グループは、ケトン食が引き起こす代謝変化が、どのように脳の電気活動を変化させるのか調べました。その結果、脳内のグリア細胞から神経細胞へ乳酸を運ぶ代謝経路が、電気活動に重要であることを発見。この乳酸経路上に位置する乳酸脱水素酵素を阻害することで、電気活動が抑制され、てんかんマウスの発作も抑えられることを確認しました。
 その後、本研究グループは、乳酸脱水素酵素を阻害する化合物を探索。小児の難治性てんかんの治療薬として近年承認されたスチリペントールが、乳酸脱水素酵素の阻害剤であることを見出しました。さらに、スチリペントールの化学構造を変化させることで、より強力な抗てんかん作用を示す乳酸脱水素酵素阻害剤も見出すことに成功しました。
 以上の結果は、乳酸脱水素酵素を標的とし、スチリペントールの化学構造を変化させることで、ケトン食療法に基づくてんかん治療薬が開発可能であることを示しています。

<見込まれる効果>
 本研究成果により、乳酸脱水素酵素とスチリペントール類似体を用いることで、新たなてんかん治療薬開発の具体的な道筋を示すことができました。ケトン食療法は、1920年代に開発されたにも関わらず、それに代わる治療薬はありません。100年近く開発に成功していない治療薬の創製が期待されます。
 歴史的に、従来のてんかん治療薬は“電気を制御する分子”(イオンチャネル[4]等)に作用するよう開発されてきました。てんかんが、脳の電気活動の過剰興奮で特徴づけられるためです。しかし今回、“代謝を制御する分子”(代謝酵素)が、てんかん発作を制御することを示すことができました。代謝酵素を標的とする“新しいコンセプトのてんかん治療薬”が、今後期待されます。
 最後に、本研究では脳が発する電気活動を調べるために、電気生理学という学問分野および実験技術を用いて進められました。電気生理学は、脳科学の基礎技術として位置づけられます。しかし今回、電気生理学が脳疾患治療薬の開発にも有用であることを示すことができました。電気生理学を軸とする創薬研究は、今後益々注目されると期待されます。

<掲載論文>
雑 誌 名: Science (March 20, 2015)
タイトル: Targeting LDH Enzymes with a Stiripentol Analog to Treat Epilepsy
著  者: Nagisa Sada, Suni Lee, Takashi Katsu, Takemi Otsuki, Tsuyoshi Inoue

DOI: 10.1126/science.aaa1299
発表論文はこちらからご覧いただけます

<用語解説>
[1] ケトン食療法
 抗てんかん作用を持つ食事療法の1つ。高脂肪、低炭水化物から構成される。
[2] 乳酸脱水素酵素
 代謝酵素の1つ。代謝物であるピルビン酸と乳酸を相互に変換する。
[3] スチリペントール
 難治性の小児てんかんである Dravet症候群の治療薬。2012年に日本国内で承認された。
[4] イオンチャネル
 電荷を持つイオンを流すタンパク質。イオンチャネルが開くと電流が生じる。

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<お問い合わせ>
岡山大学 大学院医歯薬学総合研究科(薬)
准教授 井上 剛(いのうえ つよし)
(電話番号)086-251-7955