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光合成水分解触媒のモデル化合物の合成に成功-人工光合成開発へ前進-

 岡山大学大学院自然科学研究科(理)の沈建仁教授(同大光合成研究センター長)、中国科学院化学研究所、ドイツベルリン自由大学の共同研究グループは、光合成水分解反応の触媒であるMn4CaO5クラスターと類似のモデル化合物を人工的に合成することに成功しました。本研究成果は5月8日、米国の科学雑誌「Science」に掲載されました。
 本研究成果は、天然の触媒の働きを詳細に研究するためのモデル化合物を提供すると同時に、人工光合成の実現に大きな一歩を前進させたものです。今回開発された合成化学的手法を改善し、モデル化合物をさらに発展させることで、太陽光による水の人工分解が実現し、クリーンで再生可能のエネルギー源としての水素燃料を製造することが可能になると大いに期待されます。
<背景・業績>
 地球上生物の生存に必要なエネルギーと酸素は、太陽の光エネルギーと水、二酸化炭素から光合成によって変換されたものです。光合成における水分解・酸素発生反応は、藻類や植物の葉の中の葉緑体にある光化学系II複合体と呼ばれるタンパク質で行われています。本タンパク質複合体中のMn4CaO5クラスターが触媒として、実際に水分解・酸素発生反応を進めています。本学大学院自然科学研究科(理)の沈教授らの研究グループはこれまでに、光化学系IIタンパク質複合体の高解像度構造を解析。水分解触媒のMn4CaO5クラスターが歪んだ椅子型構造であることを突き止めています。
 今回、沈教授と中国、ドイツの共同研究グループは、合成化学的手法を用いて、Mn4CaO5クラスターに類似したモデル化合物を人工的に合成することに成功しました(図1)。得られたモデル化合物はタンパク質の代わりに有機化合物に結合しており、天然のものと同じ化学組成と歪んだ椅子型構造を有しています。さらに、人工的な酸化剤により天然の触媒と同じように1電子ずつ酸化され、電子スピン共鳴測定により天然の触媒と同じような反応中間体を取ることが判明しました。しかし、このモデル化合物が水を酸化することはできていません。原因は、天然の歪んだ椅子型触媒の構造と人工的に合成された化合物構造の歪みの位置の違いです。このことは、天然触媒と人工化合物の間で異なった歪みの部位が水分解の触媒活性を発現するのに重要であることを示しています。

<見込まれる効果>
 人工光合成の実現には可視光を利用した水分解の触媒を人工的に合成することが不可欠です。人工光合成は、私たちが直面するエネルギー問題、環境問題の解決に重要なアプローチの一つです。
本研究成果は、天然触媒の反応機構を研究するためのよいモデルシステムを提供しただけでなく、天然触媒における特殊な歪みを人工的に再現することで、水分解活性を持つ人工化合物の合成を実現する大きな一歩となります。
 今後、水分解の人工触媒の合成が成功すれば、太陽光と水から水素イオンと電子を取りだす「人工光合成」の実現も期待され、さらに水素燃料を作ることも可能です。

 本研究は、文部科学省科学研究費補助金特別推進研究等の支援を受けて実施しました。

<発表論文情報>論 文 名:"A synthetic Mn4Ca-cluster mimicking the oxygen-evolving center of photosynthesis"
「光合成の酸素発生中心を模倣した合成Mn4Caクラスター」
発表雑誌: Science著  者: Chunxi Zhang, Changhui Chen, Hongxing Dong, Jian-Ren Shen, Holger Dau, Jingquan Zhao
報道発表資料はこちらをご覧ください


<お問い合わせ>
岡山大学大学院自然科学研究科(理)
教授 沈 建仁(しん けんじん)
(電話番号)086-251-8502
(FAX番号)086-251-8502

図1.水分解の天然触媒と合成されたモデル化合物。A: 光化学系IIにおける水分解の天然触媒Mn4CaO5クラスターの構造; B: 今回合成されたモデル化合物Mn4CaO4クラスターの構造; C: 天然触媒のタンパク質配位場を含んだ構造; D: 合成化合物の周辺配位場を含んだ構造。