抗ウイルス活性物質を生産する放線菌ゲノムの解読　バイオ燃料電池に有用なFDH-O遺伝子の発見

2015年09月17日

＜業　績＞
　田村教授らの共同研究グループは、放線菌Streptomyces incarnatus NRRL8089株のゲノムDNAをシーケンス解析。配列解析データと論文を公開しました。本研究は、次世代DNAシーケンサーを活用することにより、高いGC含量（71.71%）の壁を克服して、ゲノムの塩基配列50往復分に相当する大容量（460 x 106塩基対）かつ高精度の配列情報を収集。コンピュータ上で再構築することによって、全長8.9 x 106対の塩基配列を決定しました。塩基配列をデータベース上の情報と参照して、本菌のゲノムにコードされている発現産物の機能予測を行いました。また、本菌のゲノム解析の中から、原子番号34の元素セレン(Se)を活性中心に持つギ酸水素酵素FDH-Oの遺伝子が発見されました。

＜背 景＞
　シネフンギンは「核酸系抗生物質」と総称される代謝産物の一つです。核酸系抗生物質は、抗ウイルス活性、抗かび・抗カンジダ活性、抗がん活性など通常の抗生物質には見られない顕著な薬効を持ち、社会的にも潜在ニーズをもっています。しかしながら現在、核酸系抗生物質は社会的に全く活用されていません。微生物によって生産される量が極微量で、通常の育種方法では増産に導くことが極めて困難であることが主な原因です。
　研究グループはRNAポリメラーゼの転写制御を改変する方法により核酸系抗生物質の飛躍的な増産技術を開発してきたほか、水素を酸化する酵素ヒドロゲナーゼの分子設計にも取り組んできました。ヒドロゲナーゼは燃料電池の負極を構成する酵素として有用ですが、正極側の反応を触媒する酵素については目処が立っていませんでした。FDH-Oは、大腸菌などの腸内細菌が好気から嫌気へと環境変化に適応して一過的に発現する希少な酵素です。好気的生育する放線菌にSe含有型FDH-Oを発見したことは、学術的インパクトを持つ発見でした。

＜見込まれる成果＞
　ゲノムDNAの全容が明らかにされたことで本菌の物質生産システムを根本的に解明して、核酸系に特化した生産プラットホームとして、菌開発が進むことが期待されます。シネフンギンだけでなく他の核酸系物質生産に関わる遺伝子群を導入して効率的に製造できる汎用性の高いプラットホームの構築に向けて研究が取り組まれています。
　FDH-Oは細胞膜に存在して酸素を還元する機能を持ちます。バイオ燃料電池の開発には、負極で水素を酸化するヒドロゲナーゼと共に正極で酸素を還元するFDH-Oが必要とされます。共に酸素に高い耐性を持つことが求められており、高い酸素耐性を付与するセレン含有型FDH-O酵素の供給源としても本菌の有用性が高まりました。

<論文情報等>
論文名: Draft Genome Sequence of Streptomyces incarnatus NRRL8089,which Produces the Nucleoside Antibiotic Sinefungin
雑誌名: Genome Announcements
著者: Kenshiro Oshima, Masahira Hattori, Hitomi Shimizu, Koji Fukuda, Michiko Nemoto, Kenji Inagaki, Takashi Tamura

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＜お問い合わせ＞
岡山大学大学院環境生命科学研究科（農学系）
教授　田村　隆
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