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腫瘍免疫応答を高感度に定量評価する技術開発に成功~がん免疫治療の実用化を加速する診断薬に~

 岡山大学大学院自然科学研究科(工)生命医用工学専攻の二見淳一郎准教授と東京大学医学部附属病院、川崎医療福祉大学、株式会社メディネットの共同研究グループは、がん患者の体内で誘導されるがん細胞に対する免疫応答のレベルを、ごく微量の血液から定量評価する新技術を開発しました。本研究成果は9月10日、「Bioconjugate Chemistry」電子版で公開されました。
 研究グループはがん免疫治療がよく効いている症例では、血液中にさまざまな抗がん抗原抗体が増加する現象に着目し、抗体検査法を開発しています。多くのがん抗原タンパク質は不溶化しやすい問題点がありましたが、独自開発の可溶化技術の活用で解決され、高感度な抗体検出が可能になりました。本技術はがん免疫治療や関連の医薬品開発における重要なツールとして、がん免疫治療の効果をリアルタイムに測定可能なコンパニオン診断薬として応用が期待されます。
<業 績>
 二見准教授らの研究グループは、がん患者の血液中に出現することが知られている抗がん抗原抗体を高感度に検出する新技術を開発しました。この抗がん抗原抗体の抗体量は、がん細胞に対する免疫応答の活性化に伴って上昇するバイオマーカーと考えられています(図1)。今回研究グループが開発に成功した、全長・水溶性がん抗原タンパク質を用いた高感度抗体検査試薬(図2)を用いると、がん免疫治療における腫瘍免疫応答の定量評価が可能なことが確認されました(図3)。

<背 景>
 がん治療において「がん細胞の破壊」と「効率的な腫瘍免疫応答」が同時に誘導できればQuality of Life (QOL) の高い長期生存が達成できることが判明し、がん免疫治療に大きな期待が寄せられています。しかし、がん免疫治療は治療効果が表れるまで数ヵ月を要する場合もあり、腫瘍サイズだけでは治療効果の評価が困難なことがあります。従って、腫瘍免疫応答の活性化レベルを評価する診断薬が求められています。
 本研究グループでは、がん細胞内で異常に発現し、免疫系から異物として認識される「がん抗原タンパク質」に対して、腫瘍免疫応答の結果として抗がん抗原抗体の血中濃度が増加することに着目。抗がん抗原抗体を定量測定する診断薬開発に取り組んでいます。
 この診断薬開発には2つの課題があります。1つ目はがん抗原が多種多様であり、どの抗原ががん細胞内で発現し、どの部分が抗原性を示すかは、個人差が非常に大きいことです。腫瘍免疫学的な研究成果の積み重ねにより、がん細胞と精巣に限局した発現を示すCancer-Testis抗原(CT抗原)や、Tumor-Associate antigen (TAA)と呼ばれるがん抗原が報告されていますが、その数は200種類を超えます。2つ目は大半のがん抗原が不安定な物性で不溶化しやすく、通常の手法では大量調製が困難であることです。本研究グループではこれらの問題に対して真っ向勝負を挑んでおり、100種超の全長のがん抗原タンパク質を組み換えタンパク質として高生産するリソース整備を進めています。大半のがん抗原タンパク質が不溶化しやすい問題点に対しては、タンパク質内部のCys残基に対する化学修飾技術を活用した可溶化技術により解決されました。さらにこれらの全長・水溶性がん抗原を蛍光性磁気ビーズに固定化することで、高感度な抗体検査が可能になることを確認し、診断薬開発の技術基盤が整いました。本手法で調製した抗体検査試薬を用いて、がん免疫治療が奏功した例では、より高い抗がん抗原抗体価の上昇が確認され、本技術の有用性が確認されました。

<見込まれる成果>
 腫瘍局所での免疫抑制状態を解除する免疫チェックポイント阻害剤の登場により、長期生存が確認される例が報告され、がん免疫治療が本格化ステージの時代に入りました。腫瘍免疫応答の活性化の定量評価が可能な本抗体検査試薬は、がん免疫治療の効果をリアルタイムに測定可能なコンパニオン診断薬として応用が期待されます。がん免疫治療は免疫細胞療法、がんワクチン療法、免疫チェックポイント阻害剤、遺伝子治療などを複合的に組み合わせて、さらに革新的な治療の創出が期待されており、これらの創薬・治験にも汎用的に活用できる基盤ツールとして期待されます。これらの次世代技術の実現を加速する診断薬として完成・実用化を急ぎます。

<論文情報等>
論文名:Sensitive Multiplexed Quantitative Analysis of Autoantibodies to Cancer Antigens with Chemically S-Cationized Full-Length and Water-Soluble Denatured Proteins
掲載誌:Bioconjugate Chem., Article ASAP
著者:Junichiro Futami, Hidenori Nonomura, Momoko Kido, Naomi Niidoi, Nao Fujieda, Akihiro Hosoi, Kana Fujita, Komako Mandai, Yuki Atago, Rie Kinoshita, Tomoko Honjo, Hirokazu Matsushita, Akiko Uenaka, Eiichi Nakayama, and Kazuhiro Kakimi
DOI: 10.1021/acs.bioconjchem.5b00328
Publication Date (Web): September 10, 2015

http://pubs.acs.org/doi/10.1021/acs.bioconjchem.5b00328





<謝辞>
 本研究は、科学研究費補助金(基盤B)(課題番号23360370)等の助成を受けて実施しました。また、本研究テーマに対して(公財)岡山工学振興会より平成27年度内山勇三科学技術賞を授与頂きました。

<お問い合わせ>
岡山大学大学院自然科学研究科(工)
生命医用工学専攻(工学部・化学生命系学科)
准教授 二見 淳一郎
(電話番号)086-251-8217